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sideアキ: 久しぶりの登校と、後夜祭のこと

ガラッ 「ーーぉはよぅ……っ」 「っ、小鳥遊くんだ!」 「本当だ、もう体調は大丈夫なのか?」 「ごめんね、気づいてあげられなくて……」 「もうきつくない?」 「ふふふ、大丈夫だよ。みんな心配かけてごめんね、もう平気だから」 教室の扉を開けると、わぁっとクラスメイトが出迎えてくれて嬉しい。 目覚めた日は1日安静にして、今日からやっと登校。 久しぶりの学園は、あんなにみんなで頑張った文化祭の準備物とかが全く見当たらなくて…それが凄く寂しくて…… (いつもの、学校だ………) 「…小鳥遊くん、やっぱりちょっと元気ない?」 「ぁ、ううんっ、元気だよ!」 「そう? それなら良いけど……」 みんなににこっと笑って、自分の席へ歩いていった。 「なんか、もうみんな後夜祭の話題で持ちきりだねぇ」 わいわい騒めく食堂。 もうあの変質者もいないから、いつものメンバーで学食に来て久しぶりにお昼を注文している。 「まぁ、本番より後夜祭の方を楽しみにしてる生徒もいるくらいだからな」 「中学もそうだったよね、カズマ」 「だな」 「へぇぇ……そうなんだ」 後夜祭は、謂わば立食パーティーのようなものらしい。 ご飯を食べながら、ダンスをしたり合唱や楽器演奏を聴いたり…とにかく多彩なメニューが学園の広い体育館で行われる。 「でも、確か面白いルールがあったよね」 「あぁ、〝嘘ついていい〟っていうの?」 「そうそれ」 この学園の文化祭は、前は10月に行われていた。 その為、後夜祭は10月の1番最後の日…丁度ハロウィンの日だったのだそう。 今は模試とか受験とかの関係で行事が前倒しになってるから、後夜祭は31日では無くなってるけど…… でも、その伝統は今も大切に受け継がれている。 「当日は仮装する事・誰か1人にだけ嘘ついていいという事、これがルールだな」 「嘘かぁ…何で嘘ついていいんだろう」 「ハロウィンだしオバケだからじゃないか?」 「1人ってのがミソだよね、昔の生徒会も面白い事考えるよねっ」 「大事に使わなきゃなのかなー? うーん……」 「噂によると、毎年その嘘を上手く使って好きな人にアプローチする生徒が多いらしい。だから後夜祭は人気なんだ」 「中学でも後夜祭の後はカップルがたくさんできてたんだよー!高校でもそうなのかなぁ?」 「へぇぇ…そうなんだ……」 (本当、行事って種類が豊富なんだなぁ……) ………に、しても。 「仮装…かぁ……」 今日は水曜日。 金曜日の文化祭まで、後2日。 「イロハとカズマはもう考えてるの?」 「まぁな」「勿論!」 「わぁ流石っ、僕らなんも考えてないねぇ佐古くん。どうしよっか」 「あぁ? 別に仮装なんざしなくてもいいだろ」 「まぁ佐古くんはその髪の色とか制服の着方とかが、既に仮装だよねぇ~」 「……はぁ? てめ、もういっぺん言ってみろ」 「きゃー!」 わーわー始まるいつもの様子にクスリとしてしまう。 「ハル」 「ん? どうしたのカズマ?」 「生徒会の方は大丈夫なのか?」 「あぁ、実は僕今回は生徒会には携わらないんだ」 「あんな件があって病み上がりだから」と、レイヤが気遣ってメンバーから外してくれた。 だから今、生徒会は1人抜けた状態で後夜祭準備の為慌ただしい日々を送っているらしい。 (レイヤにも会えてないしな) あの件から、俺は一度もレイヤに会っていない。 お礼を言いに会いに行かなきゃと思ってるけど、どうしても気まずくて…結局行けないままで。 (どんな顔して会えばいいかもわかんないし…… 大体、ベッドであんな事されちゃったし、もう…いい加減だし) そう、言わなきゃ。 ハルはレイヤが好きだと 〝俺〟が、伝えなきゃいけない。 (ーーっ) 苦しくてきゅぅっと胸が軋む。 でも、俺が後この学園でやる事と言ったらこれだけだし…… 学園の環境。 信頼できる友人や先生。 頼れる親衛隊。 性格の最悪な婚約者との対決。 全てを整える事が出来た。 後は、婚約者に「自分も貴方が好きだ」と伝えて、その関係を確かなものにするだけ。 それで、〝俺〟の役目は終わる。 「………っ」 (あぁ、言いたくないなぁ… どうしよう……) 最近、本当涙もろくなった気がする。 ちょっと考えるだけですぐに目の前がぼやけていってしまって。 (あぁぁ…やめやめっ!) これはまた部屋で考えよ! そう!今は学食!!美味しい美味しいご飯の時間だ! 「お待たせいたしました」 丁度いいタイミングでウェイターさんが頼んだものを持って来てくれて 久しぶりに、みんなで楽しく過ごすことができた。

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