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妹が、寝ている。
可愛らしいベッドの上で、スヤスヤ気持ちよさそうに。
今は、母さんも父さんも何処かへ出かけてしまっていない。
母さんのお腹の中には、赤ちゃんがいるらしい。
次は男の子 ーー俺の〝弟〟になる。
(弟、か……)
弟が生まれたら、俺はもっと孤立するんだろうな。
まぁ正直……もうどうでもいい。
(全部 全部、もうどうだって良いんだ)
ベッドに肘をついて、寝ている妹を見つめる。
「なぁ聞けよ。俺さ、もうすぐ小学校卒業するんだ」
季節は小6の、間も無く3月になろうとしていた。
「卒業式に、両親を呼んだんだ。
なのに、母さんの病院の日と被っちゃったみたいで欠席なんだぜ。 笑えるだろっ?」
(あぁ本当、すげぇ笑える)
ねぇ母さん。
最後に俺の名前を呼んでくれたのは、いつだったっけ?
俺も、もう覚えてないなぁ……
ねぇ新しい父さん。
結局、俺はまだあんたの事を〝父さん〟って呼んでねぇな。呼ぶ努力はしたんだけど、ダメだったよ。
目の前で寝てる小さな妹の頭を、優しく撫でる。
(全然、俺と似てねぇなぁ)
兄妹なんて、言わないと絶対ぇわかんねぇ。
新しい父さん譲りのくっきりした目と鼻。
母さん譲りの口元と、サラサラの髪の毛。
髪色は、父さん譲りだ。
「本当、人形みてぇ」
俺とは似ても似つかないくらいに、別世界の子ども。
(兄妹って、こんなもんなのか?)
俺ひとりっ子だったからわかんねぇけど。
でも、学校で見かける兄弟姉妹はみんな仲が良さそうだった。
(俺も、仲良くなれんのかな)
まるで血が繋がってないように見えるこの妹や
これから生まれてくる、弟とーー
それは、ほんの出来心だった。
1度も抱かせてもらえなかった妹を、抱いてみたくて。
ゆっくりベッドから救って、腕の中に抱いてみた。
(っ、案外重いんだな……)
予想以上に重くて、びっくりする。
「…なぁ。俺が兄ちゃんだぞ」
(お前とは、全然似てねぇけど)
でも、
(俺が、兄ちゃんなんだ)
その事実だけで、今まで辛かったものが幾分か軽くなった様な気がした。
「…ぅ、……ぅ?」
(あ、目覚める)
柔らかなベッドから離れた所為か、妹がゆっくりと目を開け出した。
その、父親譲りの綺麗な瞳に……俺が映り込んでーー
「ぅ、ギャァァアァァッ!」
「っ!?」
まるでスイッチが入った様に泣き始めてパニックになる。
(ぇ、え、どうすればいいんだ!?)
妹を抱きかかえながら右往左往するが、腕の中の存在は一向に泣き止んでくれない。
「ウギャアァァァッ! アァァァァッ!」
「っ、泣き止んでくれよ…頼むからっ」
バタンッ!
「どうしたんだ!?」
「っ、ヒデト!?」
「ぁ、母さんっ、
良かった…妹が全然泣き止んでくれなくtーー」
パチンッ!
「ーーーーぇ?」
左頬に残る、ヒリヒリとした感触。
(お、れ…いま……)
ガバッと奪い取られる様に腕の中の妹を母が抱きかかえた。
「何をしてるのヒデトッ! 勝手に抱いちゃ駄目でしょう!?」
「ぇ、母さnーー」
「あぁもう煩いわねぇ!わたしは今この子を泣き止ませるのに必死なの!見てわからないの!?」
(あ、れ………?)
俺、いま何を言われてるんだ?
「ユミカ、怒鳴るのはやめなさい。体に障る、下がりなさい。
ーーヒデト」
「っ、」
ビクリと、体が震えた。
「一体何をしてるんだ? 今は勉強の時間だった筈だ。何を抜け出しているんだ」
静かに、でも確かな怒りを交えて俺に近づいてくる。
「答えるんだ、ヒデト」
「ぃ、妹が…見たくて……っ」
「? 別にいつだって見れるだろう。どうして私たちの居ない間に見に来た」
「話を…したく、て……」
「話…だと……?
はっ、馬鹿な。こんな幼い子どもと会話だと? 何を呆けている。そんな暇あったら単語の一つや二つ覚えるんだな」
「ーーっ」
「全く…お前には危機感は無いのか」と、目の前で大きくため息を吐かれて。
「ーーーーあぁ……そうだよ。
俺は危機感なんか、これっぽっちも感じてねぇ」
俺の中の何かが、音を立てて切れた。
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