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sideアキ: それは、春色のプレゼント

(やり残したことは、特にないかな) 自室のベッドに仰向けに寝っ転がって、ホッと息を吐く。 本来の目的である〝婚約者との関係を深めること〟 そして〝友人・先生・学園の環境もしっかり整えること〟 2つとも、完璧にやり遂げた。 〝小鳥遊〟の名前は、学園では当たり前の存在になった。 「小鳥遊の一人息子が家から出た」という事でたくさんの人から物珍しそうに見られてたけど、今じゃもう〝普通〟。 (まぁ、それは親衛隊の力が大きいけどな) あの時…初めて月森先輩から話しかけられた日、断らなくて正解だった。 タイラとも出会えたし、何より親衛隊の影響力のびっくりした。 (上手くいって本当良かった…この前のパーティーにも驚いたし) みんなにも「おめでとうございます!」って言われた。 なんか途中からいろんなこと根掘り葉掘り聞かれだしたけど…… (こういう時に限って先輩たちは助けてくれないよなぁ…) 俺の「助けてください!」って視線を感じてたはずなのに、もの凄くいい笑顔でニコリと微笑まれて。 「あぁ、助けは来ないのか」と本気で泣きそうになった。 (クスクスッ、まぁ楽しかったけどな) みんなそれぞれ好きな人がいて、頑張って告白しようとしてるんですって恋バナ?の相談会が始まって。 (上手く、いきますように) 「報告待ってるね!」って話しをしたから、出来れば明るい声の結果を待ってるけど……それを聞くのは俺じゃない可能性があるし。 もし本物のハルになっても、きっと俺と同じ笑顔で「おめでとう!」って言ってくれると思うから、そこは安心して欲しいかな。 (ってかみんな〝俺〟のこと知らないから、まず入れ替わってること自体分かんないか) 「ははっ」 思ったより乾いた笑い声が、部屋中に響いた。 (イロハとカズマ…佐古にも、お世話になったなぁ) 2人に出会ったのは本当偶然だったけど、あの日11個目の噴水を見つけれて本当に良かった。 イロハの元気さと優しさ、カズマの見守ってくれてる暖かい眼差しに、何度も何度も助けられた。 佐古も、初めこそ戦ったけど今じゃ心から信頼できる大切な人だ。 レイヤに服を破かれた時も、文化祭の時だって…俺を救ってくれた。 (料理もひとりでできるようになったんだよな…教えること直ぐ呑み込むし。やっぱ頭いいよなあいつ、英語の発音も神がかってるし) いやぁ…本当驚くほどハイスペッカーだよな。 (ふふふ。3人とも、これからもよろしくね) ずっと、そのままの暖かい3人で…いて欲しい。 (イロハは、早く抱えてるものが解決するといいな) みんなみんな、待ってるよ。 梅谷先生と櫻さんにも、本当にお世話になった。 いつも見守ってくれる2人はとても安心できる先生だった。 文化祭の時も、必死に俺のことを探してくれて…ただただ嬉しかった。 (恋人同士としても凄く仲がいいし、見てて幸せになれたなぁ) 俺も、ハルとレイヤを2人みたいにさせてあげたいなって…必死に頑張ってきて…… (ねぇ、レイヤ) 彼について話すことは ーーもう、何もない。 チャリッと貰ったネックレスを握る。 最近、もう癖なんじゃないかってくらいにネックレスを触ってしまう。 (みんなにも笑われちゃったなぁ) 「会長に貰ったの? 綺麗!良かったね」と褒めてもらった。 (もうすぐ本物のハルに会えるよ、レイヤ) 長かったね、ごめんね。 あと少しだと思うから、もうちょっとだけ待っててね。 「ーーっ、」 (最近、俺の涙腺緩すぎ) ジワリと涙が滲んで来て、ぎゅぅっとネックレスを強く握り目元に力を入れる。 (ほんっと、いい奴になったよな…あいつ) 今のあいつになら、安心してハルを任せられる。 ーー本当は、あの後夜祭の日、最後までされたかった。 忘れられないくらいに、強く…抱いてもらいたかった。 でも、後ろに入れられてしまったら交代した時絶対バレるだろうから…だから体が本調子じゃないからと理由をつけた、けど。 (キスマークだって、付けられてみたかったな) 初めてだからどんな感覚なのか分からないけど、でも大切な人が付けてくれた跡が体に残るのは……きっと幸せなことなんだと思う。 (まぁ…そんなの絶対無理だけどな) 入れ替わった時付いてなかったら、それこそ100%バレる。 「しょうがない…よな」 あの日は、最後までされなくても十分幸せだった。 本当、もう十分なくらいに。 (それなのにまだ欲しがってる俺、駄目だなぁ) 一体いつからこんなに我儘になったんだろう? 「はぁぁぁ………」 コンコンッ 『ハル』 「っ、はぃ!」 『丸雛と矢野元が来てんぞ。お前に用があるらしい』 「わかった、ありがと佐古くん」 『ん。リビング上げとくから、出てこい』 (何だろう……?) 教室に何か忘れ物したかな…… パッとベッドから起き上がって服を整えて、自室のドアを開けた。 「はい!これ、おれからハルにプレゼントっ」 「ぇ、」 パッとイロハから渡されたのは、正方形の綺麗な箱、 「開けてもいい……?」 「うん!勿論!!」 高そうな紐を丁寧に解いてパカリと蓋をあける、と。 「っ、わぁ………!」 そこには、9つの和菓子が綺麗に鎮座していた。 3×3の区切りの中に、手の施された繊細なものがちょこんちょこんと入っている。 「凄い…これ……っ、て………」 「そう、全部〝春〟をイメージしてみたんだ!」 大きな桜の形をしたピンク色のものや、美しい新緑を表してるような草の形をしたもの。 春の小川のような水色の川の形をしたものの下には、小さい金平糖がキラキラと敷き詰められてて… 区切られた場所ひとつひとつに物語りがあるような、そんな〝春色〟いっぱいの和菓子たち。 「本当、綺麗…何時間でも見てられそう……」 「わーほんとに!? 良かった! 実はこれ、おれが会社に提案したの!」 「え?」 「四季の詰め合わせみたいなシリーズ作りませんか?って。デザインもおれが考えてみたんだよー!」 「そうなんだ、すごいねイロハ!」 「えへへー。今回会長とのこともあったし、春シリーズが完成したら一番にハルにプレゼントしたいなぁって…本当におめでとう、ハル!! あっ、和菓子ってカロリー凄いけどこのシリーズはかなりカロリー抑えてあるんだよね!だからハルでも安心して食べられると思うよっ」 「先ずはお客さんが多い店舗にちょっとだけ置いて貰って、売れ行き良かったら全店舗に置いてもらうの!それで、他の季節のも作るんだぁ!!」と話すイロハは、流石まるひなの息子だなって思うくらい輝いていて。 ーーあぁ、でも (これは、流石に〝俺〟食べれない…なぁ……) こんなにハルへの愛に溢れた和菓子たちを、俺が食べられるわけがない。 多分イロハは目の前で少しでも食べて欲しいんだろうけど…でも、残念ながらそれは無理だ。 (ごめんね、イロハ) これは、ちゃんとハルに食べてもらうからね。 「イロハ、本当にありがとうっ。 これ、屋敷に持って帰ってもいい? 丁度明日帰るし、両親にも見せてあげたいんだよね。2人とも絶対喜ぶと思うっ!」 「うんうん勿論だよハル!喜んで貰えて良かったぁ!!」 「折角だし、このままご飯食べてかない?」という話になり、みんなでキッチンに行く為また大切に和菓子へ蓋をして紐を結んだ。

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