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sideアキ: 喧嘩の後の、余韻
「お気をつけて。それでは失礼いたします」
夜。
バタンとドアが閉まって、送ってくれた車が屋敷まで帰って行った。
(ハルと、喧嘩…しちゃっ、た……)
酷いこと、いっぱい…言っちゃっ………
ポツリ
「ど、しよ……っ」
こんなこと…生まれて初めて。
喧嘩なんか、今までしたことなかった。
(結局、あれから顔見ることなく帰ってきちゃった…けど……)
屋敷を出る前の「行ってきます!」を言わなかったのも、今回が初めてで。
(ハル…今どんな顔、してるのかな……っ)
最後にベッドへ潜る前に見た時のような泣きそうな顔を、まだしているのだろうか。
「っ、どうしよ」
「ごめんなさい」って、俺が謝れば良かったのかな。
でも、俺別に間違ったこと何も言ってないし。
だから謝らなくてもいいはず。
でも…でも……
「ーーっ、」
服の上からネックレスをぎゅぅっと握りながら、降ろされた校門前に立ち尽くす。
(俺、どうすれば…いいの?)
喧嘩なんか、初めてした。
仲直りって…どうやればいいの……?
「ハル……っ」
小さく呟いた声は自分でも驚くくらい震えていて。
『アキっ!おかえりなさい!』
『はい、ぎゅー!』
『わぁそうなんだっ!すごいねぇアキ!』
『アキー、ほらっ、おいで?』
『大丈夫だよっ、僕がいるよ』
『ーーアキのわからずや!もう知らない!!』
(っ、ハル……)
ねぇ、俺たちなんでこうなっちゃったんだろ。
何処で間違っちゃったのかな。
何を間違ったのかも…もう分かんないや。
「~~~~っ、ハrーー」
「〝ハル〟? 」
「っ!?」
近くで呼ぶ声が聞こえて、ビクリと体が震える。
バッ!とその方向を振り向くと、綺麗な黒塗りの車からレイヤが降りてきたところだった。
「あぁ、やっぱりハルか。お前も今帰りか? こんなとこで何突っ立ってんだよ、さっさと寮帰んz……」
近づいてきたレイヤの言葉が止まる。
「ーーお前、なんかあったか?」
「っ、ぇ?」
「顔色が悪いし、それに………」
ネックレスを握る手の上に、暖かな手が重ねられた。
「体だって冷えきってんじゃねぇか。どれだけ立ち尽くしてたんだここで」
「ーーっ、」
レイヤは文化祭終了後からまた龍ヶ崎の会議にちょくちょく参加しているから…多分、今その帰りと被ってしまったようだけれど。
(タイミングが、悪すぎる……っ)
ぎゅぅぅっとまたネックレスを力強く握ってしまって、それに苦笑される。
「大丈夫、別に怒ってはいねぇから。
……屋敷で、何かあったのか…?」
頭をよしよし撫でられながら、優しく問われて。
「……っ、ぁ、ぁの………」
(ぁ、うそ、口が…勝手に……っ)
言っちゃ、駄目なのに。
大切な大切な片割れとの喧嘩は、驚くほど自分にとってダメージがでかかったらしい。
「ぁ、の…っ、ぇ……と、け…んkーーー」
「ーーレイヤ? 誰と話してるんだい?」
「ーーーーっ、ぇ……?」
第三者の知らない声に、再びビクリと反応する。
見ると、レイヤが降りてきた黒塗りの車から新たに2人降りてきていた。
レイヤにそっくりな黒い髪に黒い瞳を持った男性と、肩より少し長めの髪をふんわり流している、優しげで明るい雰囲気の女性。
( 誰………ぇ、もしか、して……)
「ーーはぁぁぁ……〝親父・お袋〟。
今いいところだったんだ、話しかけんじゃねぇよ」
「あら!いいところだったそうよあなたっ、邪魔しちゃったわ~」
「ふふふ、そうだねぇ邪魔をしてしまったようだ。すまないレイヤ。それとーー」
カツン、と男性の靴の音が響いた。
「ーーーー君が、〝小鳥遊の子〟かな?」
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