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sideアキ: 初めまして、レイヤのご両親さん 1
な、なんで、
「本当近くで見ても可愛らしいわ~、あと凄く綺麗ねっ!まるでお人形さんみたい!」
「うんうんそうだねぇーいやぁ愛らしい!レイヤ、私も隣に座りたいなぁ」
「は? 何言ってたんだクソジジイこっち移ってくんな」
「えぇー酷いよー少しくらいいいじゃないか、ねー母さん」
「本当よね~あなた」
(なんでっ、俺)
ーー今、龍ヶ崎の車に乗ってるんだ……?
『まぁっ、貴方が〝レイヤの婚約者〟なのね!あらあら初めまして!』
『ぇ、ぁ、はじめ…まして……』
『声まで可愛らしいじゃない!あなた、レイヤの婚約者はこんなに美人さんよ~!!』
『本当だねー初めまして!
ねぇ君、ご飯はもう食べたかい?』
『へっ?』
『君も家から帰ってきたところだったんだろう? もうお屋敷で済ませてしまったかな…?』
『ぁ、ぇと…ま、まだですっ』
『わぁ、それは良かった!ちょっと今から食事に行かないかい?』
『は? 何言ってんだ親父、俺たちはもう帰んぞ』
『もう、そう固いこと言わないのレイヤ!私たちだって食べずに出てきちゃってるじゃない!』
『レイヤ、学園の校門が閉まるのは何時なんだ?』
『……22時』
『おぉ!それなら今20時だから、まだ時間があるじゃないか!』
『学校は明日からでしょう?その前に、美味しいもの食べに行きましょう~!』
『さぁさぁ車に乗って!レイヤたちは後ろに座りなさい』
『ふふふ、ほら早く~!』
『……っ、はぁぁぁ…悪ぃなハル。あいつら、あぁなるとどうも止まらねぇんだ…… 大丈夫そうか? 飯食えそう?』
『ぁ、だ、大丈夫ですっ!何か、元気なご両親ですね…』
『まったくだ…老いって言葉とは無縁なのか……?』
『あ、ははは……』
そんなこんなで黒塗りの広いリムジンの後ろに座らされ、向かい合った前の席にはレイヤのご両親が座り込んで。
「出発進行ー!」という謎の掛け声で動き始めた。
(あれ、俺どうなっちゃうの……?)
さっきまであんなにグルグル悩んでたのに、何か今起こってることに手いっぱいでどっかへ行ってしまった。
車内ではわいわい賑やかな声が飛び交っていて、何だか不思議な感覚になる。
レイヤのご両親は凄く明るくて、雰囲気からもいい人たちなんだなぁってことが、感じ取れてーー
「ねぇ、君」
ビクッ
「は、はぃっ!」
「あら、大丈夫? ぼーっとしてるわよ、少し酔っちゃったかしら」
「ぁ、お気遣いなくっ、大丈夫です! ちょっと緊張しちゃって……」
「あはは緊張かー、楽にしていいんだよ!ほらほら足伸ばして!」
「何か飲み物いるかしら?何でもあるわよ~!」
「えぇっ」
「はぁぁぁ…あんまり虐めんなよお前ら……」
「いやぁ…だってねぇ、あなたっ」
「息子の婚約者がこんなに可愛らしい子だと、つい、ねぇ」
「何が〝つい〟だ、何が」
「だっていつもレイヤが独り占めしてるんですもの」
「そうだよー私たち今日が初めてなんだよ? ちょっとくらいこちらに貸してくれたっていいじゃないかレイヤー」
「はっ、誰が貸すか。こいつは俺のものだ」
「まぁ!独占欲が強いわ。どうしましょう」
「辛くなったらいつでも私たちのところまで逃げて来ていいからね? いつでもウェルカムだから!」
「っ、お、まえらなぁ……!」
「………っ、あはははっ」
「「「お、」」」
(待ってもう無理、お腹がっ)
あの生徒会長龍ヶ崎レイヤにここまで言える両親。
まぁ親なんだから当たり前なんだけど、この人たちと一緒にいるといつもの大人びた雰囲気は無くなって、年相応のレイヤに見える。
それが、なんだか面白くて。
「ーーうん、やっぱり君は、笑った顔が1番だね」
「えぇ。笑顔もとても可愛らしいわ。もっと笑いなさいな」
「ぇ、」
(も、もしかして…今のって、俺に気を使って……?)
両親の暖かさに、胸がキュッと鳴る。
「ふふふ。さて、空気もほぐれてきたし、そろそろ聞いてもいいかな?
ーーねぇ、君」
「? はいっ」
「ーーーー君の名前は、何なんだい?」
「…………?」
(え、何で今更…こんな事聞かれるんだ?)
婚約者同士の関係になる前、事前に俺の両親たちと話し合いが行われるのに。
書類上でもちゃんと交わされたし、名前は幾らでも確認できる…よな……
知ってて当然のはず。
それなのに一体どうしてーー
(あ、もしかして小鳥遊が事前にハルを連れて挨拶に行かなかったからか?)
確かにレイヤと初めて会った時も、レイヤそれで怒ってたよなぁ……
レイヤのご両親は、さっきまでの楽しげな雰囲気は仕舞いつつも優しげに俺を見つめていて。
レイヤも何かを感じ取ったのか、何も言わずに俺が名乗るのを待っている。
(ここは、ちゃんと挨拶するしかない、な)
ってか初対面だし。
婚約者の両親目の前にして俺なに呑気に笑ってたんだろ。
スゥゥ…と息を軽く吸って、真っ直ぐ目の前に座ってる人たちを見つめた。
「初めまして。
この度は挨拶が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
ーー僕の名前は、小鳥遊 ハルです。どうぞ、よろしくお願いいたします」
覚えてもらえるように、ゆっくりハルの名前を口にする。
「小鳥遊ハルくんか……ふむ………」
噛みしめるように呟かれる、ハルの名前。
そのまま、レイヤのお父さんは何かを考えるように顎に手を当てて…静かに目を閉じてしまった。
(あ、れ……? 俺、何か変なこと言った?)
…いや、なにも言ってない。
普通にハルの名前を名乗っただけだ。
(それなのに、何で………)
車内には変な緊張感が広がって、車の走る音だけが響いていて。
やがてーー
「……うん。そうかハルくんか!
あぁ、名前まで可愛らしいねぇ母さん!」
「クスッ、えぇ本当にその通りだわ…!ハルくんと呼んでもいいかしら?」
「ぁ、はっ、はい、どうぞ!」
パッと目を開けたお父さんはさっきまでの明るい顔つきをしていて、また時間が戻ってきた。
(今の空気は、一体……?)
まるで、さっきまでの重圧が夢のよう。
「さぁて、それじゃぁハルくん。何か食べたいものはないかい? 何でもいいよー!」
「この辺りだったらいろいろありそうねぇ!ハルくん、何がいいかしら!」
「えぇっと…そうですね……あの、あまり味付けの濃くないもので………」
「こいつそんなに量食えねぇぞ。何かヘルシーなもんがいい」
「ちょっと、レイヤには聞いてないよー!」
「なっ、いきなり初対面でこいつが食いたい物言えるかよ!ちっとは分かれジジイ!!」
「えぇーもうレイヤは酷いなぁ」
「クスクスッ。あなたそう落ち込まないの。フォロー有難うレイヤ。
そうねぇ…それじゃぁ和食はどうかしら!お皿にちょこちょこっと可愛く盛り付けられた御膳を出してくれる料亭があったわよね。あそこならいいんじゃない?」
「あぁいいねぇ!あそこ美味しかったし確か個室もあった筈だ。うんうん、そこにしよう。
ーー月森」
「は。すでに向かっております。予約は問題ないかと」
「うん、有難う」
(わ、運転してた人、月森だったんだ)
龍ヶ崎家の月森さん…初めて見た……
昔ちょっとだけ会った事のある小鳥遊の月森さんとは、大分雰囲気が違う。
(うちの月森さんはもっと柔らかい感じだったなぁ…龍ヶ崎の月森さんは厳しそう……)
月森にも、色々な人がいるんだなぁ。
そのまま、わいわいといろんな話をして到着するまでの時間を過ごした。
***
体育大会編の【???】にも龍ヶ崎の父と母が出ておりますので、よろしければ遡っていただけますと幸いです。
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