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ぱっと見普通の料亭のような風貌だが、一歩入るとそれがただの見せ掛けと言うことが分かる。
そんな一見さんお断りの高級料亭の個室へ案内され、レイヤのご両親と向かい合うように座椅子へ座った。
(やば…俺こんなとこ初めてきた……っ)
マナーは一通り身につけてるけど、大丈夫かな…何か食べ方に専用の順番とかあったりする?
変なことしたらレイヤが止めてくれるかな……あ、でもそれって失礼? うわ、どうしよう。
「クスクスッ、そう固くならなくていいよハルくん。個室なんだからゆっくりくつろいで」
「そうよ、座椅子の上で正座なんかしなくていいわ。楽にしなさいな」
「は、はぃ…ぇと……」
(そ、そんなこと言われたって無理…無理だって……)
チラリと隣りに座るレイヤを見ると、苦笑しながら優しく頭を撫でてくれた。
「大丈夫だ。ここ、うちと仲良い料亭だから別にマナーとか気にする必要もねぇし。それにこいつらがあぁ言ってんだ、ハル、気にすんな」
「…っ、ぅ、うん」
「それじゃぁお言葉に甘えて」と、足を少しだけ崩させてもらった。
「あなた、レイヤが優しいわ」
「本当だよ。あのニコリともしなかったレイヤが、優しく笑ってるよ母さん」
「えぇ。明日は空から隕石でも降ってくるのかしら」
「あぁ間違いないね、備えなければ」
「っ、てめぇら何言ってんだ………」
「だってそれくらいのレベルで貴重なんですもの。カメラ持ってくべきだったわね、あなた」
「しまったなぁ…今のうちに月森に買いに行かせるか!」
「私は行きませんよ、社長」
「えぇーつれないなぁ滅多にない機会だよ!君だってレイヤの変わりように驚いてるじゃないか!」
「だからって買いには行きませんからね」
「うぅむ…月森はレイヤの味方か……」
「はっ、残念だったな親父」
わいわい わいわい、止まらない会話。
り、龍ヶ崎っていつもこんな感じなの…?
漫才かな? 凄い掛け合い……
(ってか、改めて見るとご両親美人だなぁ)
明るい室内で見ると、レイヤは全体的にお父さん似なんだという事がわかる。
でも笑った顔はお母さんそっくりで。
(口元がお母さんに似てんのかな?後目尻も?それ以外はお父さん似かなぁ……)
カサリ…
『ーー龍ヶ崎様。入っても、よろしいでしょうか?』
「あぁ構わないよ。どうぞ」
『失礼いたします』
カラリと障子を開けて入ってきたのは、凄く綺麗な女性。
「この度はまたうちを使ってくださいまして、有難う御座います」
「いいんだよ、ここの料理は美味しいからね。雰囲気も好きだし気に入ってるんだ」
「嬉しい限りで御座います」
「季節の御膳を4つと、量が少なめで体に優しい御膳を1つ作ってくれないかな? 食材は任せるよ」
「かしこまりました、それでは失礼いたします」
カラリとまた障子がしまって、静かに女性が去っていった。
「社長、もしかして私の分も頼まれました?」
「そうだよ、だってハルくんと初めましてなんだから!今日は月森も一緒に食べよう。さぁそんなところじゃなくてこっちに座って」
「……はぁ、かしこまりました」
スッと月森さんがお父さんの隣りに座ると、「さて!それじゃぁ改めて自己紹介だね!」と手をパンッと鳴らした。
「私の名前は龍ヶ崎マサトだ。レイヤの父で、今龍ヶ崎の社長をしている」
「私は龍ヶ崎トウコよ。レイヤの母です。よろしくねハルくん」
「月森シズマと申します。龍ヶ崎の月森です。何か御座いましたら何なりとお申し付けください」
「初めましてっ、小鳥遊ハルです。よろしくお願いします」
「………レイヤは自己紹介しないのかい?」
「なっ、俺別にする必要ねぇだろうが!何言ってんだ…」
「っ、ふふふふ」
(漏れなくいじるなぁもう、面白い)
「ハルくん、私たちのことは〝お父さん・お母さん〟って呼んでいいのよ」
「なんならパパ・ママでもいいぞ!」
「あら、それいいわね!レイヤは頑として呼んでくれなかったものねぇ」
「そうだなぁ…子供の頃から変に大人ぶってたもんなぁレイヤは」
「っ、うっせぇな!俺のことはいいだろうが!」
「〝ハル様〟とお呼びしても? 私のことは〝月森〟とお呼びください。いつもミナトや小鳥遊の月森がお世話になっております」
「ぁ、いいえ、こちらこそいつもお世話になってます」
ペコッと頭を下げると、ハッと小さく息を呑む音。
「顔を上げてください」と言われ顔を上げると、苦笑している月森さんがいた。
「ハル様、月森には頭を下げる必要は無いのですよ」
「いやっ、でも本当にいつも支えてもらってるので、その…」
「うんうん、ハルくんはいい子だね」
「月森が笑うの、久しぶりに見たわ」
「お前…笑えんのか……」
「ぇ、」
もう一回見ると、さっきまでの無表情のような顔に戻ってお茶を飲んでいた。
***
番外編【龍ヶ崎家の月森さん】にもシズマ・マサト・トウコが出てきておりますので、よろしかったらご覧いただけますと幸いです。
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