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sideアキ: さよならの、行き着く先はーー

「あんたが、アキかや?」 「っ、はぃ……」 着替えてから直ぐに車へ乗せられ、辿り着いた先は空港だった。 「時間が無い」という意味はこの事だったのかと、他人事のように思って。 そのまま飛行機に乗り込み、着いた先の空港で待っていた車に、再び乗り込んでーー そうして着いた、びっくりするくらいに遠いこの場所。 古びた家の中には、両親よりも歳を取った女性と男性がいた。 お婆さんお爺さんとまでは行かなくとも、その一歩手前のような年齢。 玄関先で、じぃぃっと見られる。 「ほんにまぁ…ハル様と瓜二つの顔じゃねぇ」 (当たり前じゃん、そんなの) だって双子なんだから。 「本当じゃなぁー、まさかナツヒロ様にこんな子がおったとは…… ーーーー気味が悪い」 「っ、え…………?」 小鳥遊の、遠い遠い…血の繋がりがあるのかも分からないくらいの親戚。 ハルが双子という事さえ知らされてなかった彼らにとって、それはただの率直な感想なのだと思う。 ーーけれど、 〝気味が悪い〟 (俺って…気味悪い……の、か…?) 今まで、そんな事言われたこともなかった。 似てるのは当たり前で、だって双子だからで、なのにーー ドクン ドクンと跳ねる心臓が、うるさい。 「ほら、何ぼけっと突っ立っとんじゃ。早よぉ中入り」 「っ、は、はぃ」 「あんたの部屋は階段上がった2階。風呂はそこで便所はそこじゃ。食事は階段に置いてやるけぇ自分の部屋で食え。食器は自分で洗いぃ」 「わ、かり…ました……」 「ん。分かったらさっさと上あがって、荷物の整理でもしぃや」 「はぃっ」 パタパタパタ…と階段を上がる後ろで、「気味が悪いなありゃぁ」「あぁ、あんまり話さんようにせんとな…」とコソコソ話す声が聞こえた。 バタンと、自分の部屋であろう場所のドアを閉める。 (屋根裏…部屋……) 埃を被ったような、まるで物置のようなその部屋には、机と座布団と布団のみ…用意されていた。 「っ、はは…」 (俺、何やってんだろ………) 今までやって来たことは、全てハルのためだった。 ハルのために、あの学園の環境とレイヤとの関係を整えた。 (役目が無くなった俺は、知らない土地のこんな場所まで来て、ここで生きて行けってか……) 足に力が入らなくなって、崩れ落ちるようにしゃがみ込む。 ポソッ 「っ、無理…だよ……っ」 こんなとこで生きて行くなんて、無理。 だって息がうまく吸えない。 心臓がうるさくて、未だに脳は何が起こったのかを全然理解してくれてない。 さっきまで学園で普通に授業を受けていたのに、すぐに屋敷へ帰らされて、あっという間に此処へ来て…… まだ、思考が追いついてなくて頭がぼーっとしてるのがわかる。 (でも、これは流石に…予想してなかった、な……) ハルと交代する時は、また屋敷に戻されるのだろうと思っていた。 (ははっ、そうだよな。レイヤが遊びに来た時確かに同じ顔の奴がいたら驚くか) そっか、そうだよな。 頭では納得するけど、心は…張り裂けそうに、痛い。 思わずネックレスを握ろうとして その手がスカッと、空を切って…しまって…… 「ーーーーっ!」 さっきまでネックレスがあった場所を、ぎゅぅぅと握りしめる。 (あぁ、そうだった………) ーーーーもう、俺には〝何も無い〟んだった。 「~~~~っ! ふっ、ぅぇ」 ボロッと大粒の涙が溢れてくる。 (俺にはっ、もう…何もない……っ!) 友だちも先輩も先生も、婚約者も家族も、全部俺のものじゃなかった。 (ハルだって、もう!) 喧嘩別れをしてしまった、仲直りする暇も…なかった。 きっときっと、俺のことを許してはくれないだろう。 〝気味が悪い〟 さっき何気なく言われた言葉も、深く心に突き刺さっている。 (っ、ど、しよ………) このままじゃ、俺… 俺、はーー ポツリ 「たすけて………っ」 伸ばした手は、誰にも届かなくてただ空中を彷徨うだけ。 「助けて」と言ったくせに、誰に助けを求めればいいのかも……分からなくて。 (あぁそっか、みんな…俺の事、知らないんだった) 今までみんなと過ごして来たのは〝ハル〟だ。 〝俺〟じゃない。 「は…っ、ぁ………」 〝誰かの名前〟を呼ぼうと開いた口からは、何も出て来ない。 (ーー嗚呼、そうか) 俺は、 ーーーー俺は、ひとりなんだ。 [さよなら編]-end-

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