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sideアキ: 初めての学校

「今日からここに転入してきた〝小鳥遊 アキ〟君だ。 ほら、小鳥遊君。挨拶して」 「ぁ、初めまして、小鳥遊 アキって言います。昨日からこの町に来ました。出身はーー」 初めての、場所。 初めての、学校。 初めての、教室。 初めての、人たち。 自分の名前で挨拶するのが凄く不思議で、なんだが逆に緊張してしまう。 着慣れない学ランの裾を、キュッと握った。 「すっげ!小鳥遊(ことりあそ)びって書いて〝たかなし〟って読むんだ!」 「めっちゃ珍しいな!」 「ってか凄い美形じゃない!?」 「ねぇねぇ、前の学校で彼女いたのっ?」 「おーまーえーらーなぁー……そういう話は後で!」 「「はぁーいっ」」 わいわい楽しそうなクラス。 何でもない、普通の男女共学高校。 〝小鳥遊〟を知らない人たち。 多分これが、〝普通〟なんだと思う。 世間から見れば、前の学校の方が遥かに異常に見えるはず。 だから、これからはこの普通に慣れていかなきゃいけない。 だけどーー 「…………っ」 あるはずのないものがあった場所を、学ランの上からギュッと握る。 ポソッ 「あーぁ、もう……」 (無いものに縋って、本当どうしようもないな、俺…) 凄くいいクラスなんだと思う。 雰囲気もとても柔らかいし、クラスメイトも優しそう。 (でも、) でも、俺はーーーー わいわい盛り上がる教室の中で 1人、ポツンと取り残されたような ーーそんな、感覚がした。

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