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ハルは「この日の為にずっと耐えてきた」と言っていた。 そして、その瞬間がまさに今来ているのにも関わらず「みんなの気持ちに折り合いが着くまで待つ」と言っていてくれてる。 ーーなんて〝強い子〟なんだろうと、思った。 おれがハルだったら、直ぐにアキを迎えに行ってしまう。 みんなに必死になって助けを求めてしまう。 それなのに、そんな気持ちをぐっと堪えて俺たちの気持ちを優先してくれるハルは……本当に強いと思う。 (きっとその分、今回の事に賭けてるんだ) チャンスは一回きり。 失敗したら、もうハルにもアキにも会えることはない。 それだけじゃない。 あの小鳥遊に楯突いたのだから、会社としてもそれなりの代償は被る事になる。 (でも、それでも……) 「おれ、アキが戻ってきたら…みんなでまた料理教室やりたいんだっ」 佐古くんとどうにか仲良くなりたくて、咄嗟に思いついたあの料理教室。 「次はタイラちゃんとハルも呼んでね? みんなで計画立てあって、好きな食べ物や得意料理っ、聞いて……〜〜っ」 (ねぇ、アキの好きな食べ物は何だったんだろう) 得意料理は何なのかな? 苦手なものとかって、ある? 何が作れない? おれが考えたお菓子は、美味しかった? 全部、全部聞きたい。 「アキの、本当の気持ち……知りたいっ」 そして、ハルとしてのアキの気持ちを考えずに言ってしまった酷い言葉のこと、謝りたい。 (ねぇ、アキはおれたちのこと好きだったのかなぁ?) ハルのために友だちになってくれたのかもしれないけど。 でも、おれたちの事ちょっとでも気に入ってくれてた? (そうだと、嬉しいな) 「名前を、呼びたいな。イロハ」 「うんっ、〝アキ〟って、呼びたい……」 本当のアキはどんな子なんだろう? 嫌いなもの、好きなもの、全部全部教えて欲しい。 「カズマは矢野元の事、いいの?」 「あぁ。俺は父さんには〝無茶は学生時代にしておくものだ〟と言われてるしな。今回のは大きい無茶だが、大丈夫だろう。 ………イロハは?」 「おれも、きっと大丈夫」 元々、どの道丸雛とは一度ぶつからなきゃいけなかったんだ。 だから、寧ろ今回の事がきっかけでそう言った話し合いの場を設けられるのなら、それこそおれには好機だと思う。 「だから平気だよカズマっ。 おれはもう、」 「ーーっ、そうか。強くなったな、イロハ」 「えっへん!ハルとアキには負けてられないからね!」 にこりと笑ったおれを、カズマの手が優しく撫でてくれた。 「さぁて!そうと決まればすぐにハルのとこ言いに行こ!きっとハルも待ってるよ!!」 「そうだな。 っと、その前に。イロハ、あのさ…ーー」 「…ーーっ!それおれも考えてた! カズマ、それも言いに行こう!」 「わぁ……っ、まさかその日のうちに回答が貰えるなんて思ってもみなかった…!」 ハルの部屋を訪ねると、佐古は外へ行っており居なかった。 上がらせてもらって、リビングのソファーでおれたちの気持ちを伝える。 「本当に…いいの? 矢野元と丸雛は、大丈夫?」 「あぁ、問題ない」「全然へっちゃらだよ!」 「ーーっ、有難う……っ」 心から「嬉しい」というように笑ってもらえて、こっちまで嬉しくなる。 「じゃあ、もうすぐ消灯時間だし、これからの話はまた明日にでもーー」 「待って、ハル」 「?」 「俺たち、もうひとつ伝えたい事があって来たんだ」 「? なに?」 「あのね、 ーーーーおれたちと〝友だち〟になろう? ハル」 「っ、ぇ…………」 おれたちは、今までもずっとハルと友だちだった。 でもその〝ハル〟はアキが作ったまやかしで、本物のハルとは今日が初対面。 ハルがバラさなきゃこのまま友だちだったのかもしれないけれど……そんなのは違うと思うから。 アキがこれまで積み上げてきたものを壊すのは、とても勇気がいったと思う。 それをしてまでアキを助けたいと頑張るハルを ーーおれたちは、アキのように〝支えたい〟と思った。 「アキもハルもさ、いつもいつも自分より他人の事ばっか考えてるよねっ」 「ぇっ」 「そうだな。たまには自分のことも顧みて欲しいものだな」 「えぇっ」 ハルのためにずっと頑張ってきたアキ。 アキのためにずっと頑張ってきたハル。 びっくりするくらいにそっくりで、いじらしくて。 (あぁ、もう) 「「ほんっと、やっぱりハルとアキは〝双子〟だよ!」」 「ーーーーっ!」 おれたちの言葉にハルが目を見開く。 その目から、ポロリと涙が落ちてきた。 「? こんなこと今まで言われたことなかったの?」 「っ、なかっ、た…父さんにも、誰にも……」 「ということは、俺たちが1番だな」 「ん、そう……っ」 「ふふふっ。 こんなに似てるところだらけなのにー言ってあげないなんて変なの! ねぇ、自己紹介から始めよっか。もうおれたちのこと知ってるかもしれないけれど」 「面と向かって話すのは、今日が初めてだからな」 にこりと笑うと、ポロポロ泣いてるハルも…にこりと微笑んでくれて。 「ありがとうっ、イロハ、カズマっ」 『イロハ、カズマっ、ありがとう』 「ーーっ、お礼言われることじゃないでしょ! ほらもう泣かないの、目が腫れちゃうー!」 「クスクスッ、うん」 お礼を言われたハルの声と一緒に、何故だかアキの声が聞こえたような気がしたーー

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