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side龍ヶ崎夫妻: それは、小鳥遊の秘密 1

「私たちが小鳥遊の秘密に気づいたのは、本当に偶然だった」 小鳥遊は代々続く大企業ではあったが、昔からの商品を大切にし進化をせずそればかりを作って特定の層をターゲットとしていた。 だが、あの双子の父が社長のポストに着いた途端にその考えを払拭するような商品を次々と開発し始め、あっという間に時代の最先端を突き進む会社へと変わっていった。 「社長が変わるだけで会社自体の経営の仕方や雰囲気は大きく変わる。私が龍ヶ崎の社長になった時も随分と変えたものだよ。まぁ、変えるのにもそれなりの労力が必要だけどね」 〝小鳥遊が変わった〟と、私たちの世界ではそれは有名になった。 目を見開くほどの大きな変化。 昔からの古株たちもいる中でこれだけ社の方針を変えるのは、さぞかし大変だっただろう。 それをやってのけた社長は一体どんな男なのだろうかと、一気に注目を浴びた。 「でもね、もともと小鳥遊は内向的な家でビジネスシーン以外では会えなかったんだ」 あまり他の会社や他の家と関わりを持たない小鳥遊は、中々パーティー等の集まりの場には顔を見せない。 だから取り繕った顔の小鳥遊社長しか見たことがなく、全てが謎に包まれていた。 「そんな中、一度だけあの企業がパーティーを開いたんだ」 小鳥遊の創立記念が区切りのいい数字になったと共に、生まれた息子の誕生日の日も近かったらしい。 その2つが丁度重なり、過去に取引をしてくれた会社や割と近しい立場にある人が招待され、小鳥遊の屋敷で盛大なパーティーが開かれた。 「勿論私たちも参加できたよ。いやぁ私の類い稀ない努力の成果かなぁ。あの企業は本当に面白くてね、一度社長とはちゃんと話をしてみたかったんだ」 小鳥遊をここまで変えた男。 龍ヶ崎も自分が社長になってから大幅に成長したという事もあり、知らないうちに親近感を覚えていた。 「きっと何かいい刺激が互いに貰えるんじゃないかと思ってね。 でも、こんなまたと無い機会を他だって逃すわけが無い。皆んなが皆んな狙っていて、小鳥遊の屋敷は多くの人でごった返してて…いやぁ大変だったよねぇ」 「えぇ、大変だったわ……小鳥遊夫妻とお子さんは終始人に囲まれて、話しかけるのにも一苦労で。 だから、私たちは後からお話をしに行こうと思って少し会場で時間を潰していたの」 『ねぇあなた。少しお手洗いに行ってきてもいいかしら』 『あぁ、構わないよ。寧ろ送って行こう。小鳥遊社長はまだ大変そうだからな』 そうしてザワザワとした会場から離れ、静かな廊下を2人で歩く。 『とても綺麗なお屋敷ね』 『本当だね。うちの屋敷も大きい方だが、同じくらいかそれ以上だな』 『ふふふ、インテリアも素晴らしいわ』 『ビンテージものだなぁ。家具の色からして、代々受け継がれているものなんだろう』 『そうなのね。お庭も、とても華やか……』 夜に開かれているパーティーなのにも関わらず、月明かりの下で沢山の花が咲いているのが分かる。 『こんなに立派なお屋敷なのに、今まで誰ももてなすことをしてないなんて本当に勿体ないわ』 『クスッ、そうだね。 ねぇ、用が済んだら少し庭を見せて貰わないかい?』 『え、いいのかしら…』 『君の目が輝いているよトウコ。本当に花が好きだね。 うーん少しくらいいいんじゃないかな。花々も誰かに見られるためにあんなに咲いてるんだ。それに暗がりだし、特別バレることも無いかと思うよ』 『本当に?それだったら是非少し見て回りたいわ。うちの庭の参考にしたい…!』 『クスクスッ。うん、そうしようか』 トウコのお手洗いを待って、少しだけ庭を見せて貰おうと外へ出た。 『わぁ…!本当に素晴らしいわね!!』 『うん、綺麗だねぇ。よく咲いている』 『この時期にはこんな花々を植えるのがいいのね、参考になるわ……』 色合いや配置…全てにおいて綺麗に洗練された庭は、庭師の力なのかそれとも小鳥遊の趣味なのか、花をよく知らない私でも見入ってしまうほどだった。 『あっちには何が咲いてるのかしら』 『クスクスッ。トウコ、そんなに奥へ行くと危ないから手を繋いで、ほら』 『っ、だ、大丈夫よ!これくらいの暗さなら別に危なくないわ』 『もー君は本当に強いなぁ。じゃぁ私が繋ぎたいなって言ったら繋いでくれるのかい?』 『うぅぅ…っ、し、しょうがないわねぇ……』 『ふふふふ。はい、手を出して』 おずおずと伸ばされた手。 ーーだが、その手は私が握るより先にビックリしたように体ごと私へ飛び付いてきた。 『っと……どうしたトウコ?』 『ぃ、いま…何か聞こえなかった……?』 『え?』 『絶対何か聞こえたわ…子どものような、声が……』 『向こうから』と指す方向は、庭の奥の方。 『…私には何も聞こえなかったが……どうする?行ってみるかい?』 『勿論よ。これでも私は元保育士なんだから子どもの声には敏感な方よ。何処かの家のお子さんが迷い込んじゃってたら可哀想だわ。こんなに暗いんだし、きっと泣いてるに決まってる…』 手を繋ぎながらゆっくりゆっくりと庭の奥へ進んで行くと、そこには少しだけ開けた場所があり、古びた噴水が静かに音を立てていた。 その物陰に、隠れるようにして小さく鼻歌が聞こえる。 スルリと、トウコが私の手を離してその子の元へ近づいて行った。 『ねぇきみ、なにをしてるの? 大丈夫かしら。帰り道がわからなくなっちゃったの? よかったら私たちと一緒に、お母様たちのところまで帰りmーー』 ビクリと、屈んでいた体が止まる。 『………? トウコ?』 一体どうしたんだ?と近づき、同じく見つめている子どもの方へ目を向けて…… 『ーーーーっ!』 私も、言葉を失った。 『おばさん、おじさん、だぁれ?』

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