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sideレイヤ: その、真実は

バタン!と扉を乱暴に開けて龍ヶ崎の屋敷に入る。 俺の突然の帰りに「レイヤ様!?」とあちこちから呼ばれるが、全て無視だ。 聞きたい事が、ある。 『君の名前は、何なんだい?』 思えば、おかしいとは思っていた。 婚約者の件で幾度となく交わした書類の中に、あいつの名前はたくさん書いてあった筈だ。 それなのに、どうしてわざわざ本人に訊くのか疑問だった。 だが、あの時のただならぬ雰囲気を感じて…その疑問をぶつけるべきではないと察した。 だがーー 「っ、くそ」 『レイヤ、あの子のことをよく見ておくんだ』 『はぁ? なんで』 『クスッ、何でだろうねぇ。でもね、よく見るんだレイヤ。ーー後悔してしまう前に』 (分かりずれぇんだよ、このやろうが) もう少し…もう少しで、俺は分かることができた。 ハルの中のあいつを見つけることができた。 なのに…… ギリッ!と奥歯を噛み締めながら1番奥の部屋へと向かう。 そして親父が仕事で使う部屋のドアをガチャッ!!と開け放った。 「っ、レイヤ様……?」 「おや、レイヤ。珍しいねーどうしたんだい?」 「………よう」 無表情だがやや驚いた雰囲気の月森と、楽しそうに笑ういつもの親父。 だが、親父は俺の表情を見た途端全てを察したように「あぁ、そうか」とポツリとこぼした。 「は、消えてしまったんだね」 (っ、やはり…) 「……おい、いつから知っていた」 あいつが双子という事を。 小鳥遊のひとり息子が、本当はひとりではないという事を。 あの時夕食を共にしたハルが、本物のハルではないという事を。 (どうやって、こいつは知っていたんだ) 「お前は、俺に〝後悔しないように〟と忠告したな。 だが、後悔だらけなんだよ…もう」 ーーあぁ本当、腹がたつくらいに後悔している。 あいつがどんな思いでハルを演じてたのか、俺への想いはどうなのか、その本心は正直分からない。 (だが、あいつと一緒に過ごした半年間は……) 想いが通じあったあの瞬間だけは、決して嘘ではなかったと…そう思っている。 それなのに、俺はあいつの事を何一つ理解していなかった。 なぁ、お前はあの時どんな思いで俺の腕に抱かれたんだ? (一体どんな思いで…俺に「好きだ」と告げた?) お前は本物のハルを託して俺の手を離していったが、本当は離したくなかったんじゃねぇのか? おい、今どこにいるんだよ。 どんな思いで日々を過ごしてる? (早く、早く迎えに行きたい) 儚さのあまり消えてしまいそうだと思っていたら、本当に消えてしまったあいつを。 今度は、もう二度と俺の前から消えないように…キツく抱きしめておきたい。 ーーもう……絶対に、離したくはない。 「だから、知ってる事を、全て教えて欲しい」 あいつにまつわるもの、何だっていい。 俺はお前に関わる事を知れるだけ知って、会いに行きたい。 「頼む、親父」 綺麗に頭を下げると、月森の息を飲む音が聞こえた。 「………うん、いいだろう。 もともとお前には話しておこうと思っていたんだ。だが前の状態のお前に全てを話してしまうと、頑張っているあの子が壊れてしまうんじゃないかと…屋敷へ連れ戻されてしまうんじゃないかと思ってね、言えなかった。 すまないね、レイヤ。頭をあげなさい」 言われた通りにすると、そこには優しく微笑んでる顔があった。 「本当に…お前はよく成長したよ。 ーー月森」 「はい」 「今日これから入っている会議は全てキャンセルだ。先方に連絡してくれ。それから、今からこの部屋へは誰も近づけないように人払いも」 「かしこまりました」 「レイヤはそこに座っておいて。 私はトウコを呼んでこよう」

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