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sideレイヤ: 龍ヶ崎の思惑と決意
「ーーは?」
「ふふふ、以上だよレイヤ」
「なんだ、それ……
お前ら、そんな昔から小鳥遊の息子と俺を会わせる為に動いてたのか?」
「うん、そうなるなぁ」
「シェア独占して業界1位になって、次の目標は小鳥遊と提携を兼ねた婚約だった…てのか……?」
「そうだね。業界は違えど、私はあの企業をライバル視していたよ。向こうもそうだったかもしれないが」
「それで両者一歩も譲らず1位であり続け、遂に婚約を兼ねての提携を結んだ、と」
「そうなんだよ!いやぁ長かったなぁ。ずっとラブコールしていたんだよこっちは。うちも小鳥遊も有名企業だからね、婚約兼ねての提携なんて結びたい会社は引く手数多だ。その中から龍ヶ崎が選ばれた時には、もうそれは喜んだものだ」
「ねー!」と互いにニコリと笑い合う両親。
(おいおいおいちょっと待て。って、ことは……)
「要するに、俺はお前の手の中でずっと転がされてるだけだった、と」
「クスクス、そうかもしれないねぇ」
(なんて奴だ)
前々から親父は食えないタヌキのようだと思っていたが、まさかここまでだったとは……
小鳥遊とめでたく婚約者の関係を勝ち取り、
小鳥遊の子と俺を会わせ、
それによって俺の心は驚くほど変化した。
(全てが、親父の思惑通りに動いたってわけか……?)
「でも、果たして転がされてるのはどっちだろうねぇ」
「は?」
「もしかしたら、転がされているのは私たちの方かもしれないよ、レイヤ」
相手はあの小鳥遊の社長だ。
腹の底など、まるで見えない。
もし、小鳥遊に何らかの憶測があって、その為に龍ヶ崎と提携を結んだとしたら?
「利用されているのは、こちらかもしれない。
ーーだがね、レイヤ。
私は、これは恐らくいい展開だと思っているんだ」
「あぁ? なんでだよ」
「小鳥遊は〝守り〟に入っている。あの子が正式に公言されてないところを見ると、もうずっと。
いい加減にこの現状を変えたいと思っているのではないかな?その為に〝攻め〟である龍ヶ崎が使われたのだとしたら、それはとてもいい事だ」
〝守りの小鳥遊と、攻めの龍ヶ崎〟
その話をあの社長が覚えていて今回使ったのだとしたら、それは絶好の好機だ。
「クスッ、ねぇレイヤ。
小鳥遊はどうして〝小鳥遊び〟と書いて〝たかなし〟と読むか知っているかい?」
「小鳥が遊べるとこにはタカが来ねぇから、安心だって意味だろ」
「そうだね、タカがいないから安心して小鳥が遊べる。だから〝小鳥遊〟。
ーーいやぁ、まさかそんなところにタカどころじゃなく〝龍〟が出るなんてなぁ。
実に面白いことだとは思わないかいレイヤ?」
「はいはい、そうだな」
ニヤリと笑う親父を眺めながら、ひたすらに思考を張り巡らす。
親父の話の中にあった〝愛は人を変える〟という言葉。
それは、俺自身も身を持って実感した。
『空っぽのような心は、愛によって驚くほど彩られていくものだ。人生とは、そのように出来ているのかもしれませんね』
(あいつらの親父の言葉にも、納得ができるな)
どうしてここまで似ている家同士なのに、こんなにも違うのか……
「ハル君は〝夫人があの子を嫌っている〟と言っていたんだよね? それと夫人の薬の件」
「そうだ」
「ふむ…我々は小鳥遊には〝何か大きな出来事があって、何かを守ってる〟ということしか掴めてはいなかったが、もしかしたらそれが〝夫人〟なのかも知れないね」
「…〝あいつらの母親からあいつを守る為〟に、正式に公言してないとか……」
「うーん…どうして公言しないことが守ることに繋がるんだろうねぇ……」
(意味が、分からない)
だが、少し。
後もう少しで、集まったピースたちがはまりそうーー
「…とりあえず、我々はここまでかな。後はレイヤ次第だね」
「あぁ、望むところだ」
いい情報が聞けた。
・小鳥遊には何か大きな出来事が起こったということ。
・それによって、小鳥遊は前に進むことを辞めて守りの体勢に入ったということ。
・あいつの事を正式に公言していないのは、何かから守る為である可能性が高いということ。
ここまで聞ければ、もう充分だ。
「……ねぇ、レイヤ」
ずっと黙っていたお袋に、ポツリと名前を呼ばれる。
「ん?」
「あの子の名前は、何て言うのかしら? 私たち、あの日結局名前を聞けていなくて……」
「〝アキ〟だ」
「そう、〝アキくん〟って言うの………」
噛みしめるようにそう呟いたその瞳から、ポロリと涙がこぼれ落ちた。
「いい、名前ねぇ……っ」
「っ、」
(後、少しだった……)
『お前ってさ、春 より秋 って名前の方が、しっくり来るよな』
後、もう少しでお前に気づくことができた。
なのにーー
ギリッ!と奥歯を噛み締めながら俯く俺を、ふわりとお袋が抱きしめた。
「ねぇ。全てが終わったら、たくさん呼んであげましょうね」
「っ、あぁ」
「たくさんたくさん…もう耳にタコができちゃうほどに、いっぱい呼んであげて…甘やかしてあげて……っ」
「~~っ、」
(くそ、)
お袋のが移ったのか、俺もじんわりと視界が滲んでくる。
「レイヤ。これから皆んなと小鳥遊へ行くんだろう?」
「っ、そうだ」
「龍ヶ崎の、全てを使ってくれてかまわないよ」
「ーーぇ、」
驚いて親父を見ると、その顔はニヤリと笑っていて。
「大事な大事な私たちの息子が、人生で大一番の勝負に出るんだ。あるものは全て使って挑みなさい」
「会社のことなんてね、気にする必要ないわっ。どうせこの人がなんとかしてくれるんですから!」
「っ、」
(あぁ……)
思えば、いつだって両親は自分を応援してくれていた。
やりたい習い事は全部させてくれて、辞める時も辞めさせてくれて。
(暖かいな)
ーーなぁ、アキ。
俺がこんなことに気づけたのも、全部お前のお陰なんだぜ?
「ありがとう、親父、お袋」
(これで、全てが整った)
目頭をグッと抑えて涙を拭い、ニヤリといつもの笑みを浮かべる。
「行っておいで、レイヤ」
「ハルくんとアキくんを、救ってらっしゃい」
「ーーあぁ、任せろ」
(待ってろ、アキ)
今から、ハルやみんなと共に
ーーーー助けに、行くからな。
[準備編]-end-
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