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〝愛〟は、人を変える。
当たり前だ。
その言葉とその意味は、もう幾度となくトウコから身をもって教えられた。
『空っぽのような心は、愛によって驚くほど彩られていくものだ。人生とは、そのように出来ているのかもしれませんね』
〝やはり、我々はよく似ている〟
何をもってそう捉えたのだろうか?
私の信念?
それとも、その信念は愛によって支えられたという部分?
恐らく、後者だ。
と言うことは小鳥遊がここまで一気に飛躍したのも、恐らく社長の揺るぎない信念と、それを支えた夫人の愛があってこそということなのだろうか。
『だが、少々…いや、大きな違いがある』
『?』
『あなた方の愛は、共に寄り添い支え合って前に進んでいくことができるものだ。
ーー私たちも、そうだったのだがなぁ……』
『……ぇ?』
どう言うことだ?と目で訊いても、返ってくるのは静かな笑みだけ。
そのまま社長は窓の方へと近づき、暗い外の庭を見ながらポツリとこぼした。
『ねぇ、龍ヶ崎社長。
もしも、乗り越えることがとても困難な程大きなトラブルに直面したら…貴方なら、どうされますか?』
『乗り越えることが、とても困難な……?』
『えぇ。下手すれば愛自体が無くなってしまうような…これまで共に積み上げてきたものが、一気に崩れ去ってしまうような……
ーーそんな出来事が起こったら、どう動かれますか?』
(愛自体が、無くなってしまう…積み上げたものが一気に崩れ去る…)
何を言っているのか、全く理解できない。
だが、そうだな……
もしも、本当にもしも、私たちにその様な考えられない程大きな出来事が、起こったならば………
『『…答えはふた通り、ある』』
『っ、』 『クスクスッ、やはり同じ考えだ』
この場合、答えは2つだと思う。
〝現状を維持して出来事を解決する〟か〝前に進みながら出来事を解決する〟か。
何かしらのトラブルは、過去に起こったことが原因である事が多い。
だから過去へ戻るのは当たり前だ。
それならば、過去へ戻りながら歩むのを止めるか・止めないか……そこが大きな違いとなる。
『あなた方の場合、選ぶのは後者だろう』
(確かに、私たちは前に進みながら解決していくことを選ぶ)
私自身に何かあっても、トウコに何かあっても、レイヤに何かあっても…
私たちは歩みを止めず進み続けていくことができるような、そんな家族であるはずだ。
『私は、前者を選んだ』
(前者を)
『歩みを止め、守ることを選んだのです』
『その結果が、今です』と自嘲気味に笑う社長の窓へ着いている手は、真っ白になる程強く拳が握られていた。
一見して聞くと、ここまでの話はどうやって小鳥遊が革新したのかの信念を伺っているように聞こえる。
だが、既にあの子のことを知っている私たちからすれば、それは小鳥遊の〝今の現状〟を語っているかのように聞こえて……
(庭を見ている社長の目には、恐らくあの子が映っているのだろうな)
〝守る〟か…
ーーそのような大きな決断をした小鳥遊社長は、一体何から何を守ろうとしているのだろうか……?
『あなた』
『あぁフユミ、おかえり』
丁度いいタイミングで戻ってきた夫人に窓から手を離し振り返った小鳥遊社長は、既に先ほどの柔らかな笑みを浮かべていた。
『さて、我々は別の方への挨拶に行くとしよう。龍ヶ崎社長、引き続きお楽しみいただけますと幸いです』
『勿論です。小鳥遊社長も、あまり気疲れせぬよう』
『ありがとうございます。
ーーまた、お話しいたしましょう』
『……あなた』
去って行く後ろ姿を見送っていると、小さく話しかけられる。
『ねぇトウコ、この会社は ーー面白いね』
『ぇ?』
(前々から面白い奴が就いていると思ったが、ここまでとは)
ーー恐らく、小鳥遊には〝何か大きな出来事〟が起こった。
その為に小鳥遊社長は、挑戦することを…攻めることを止めて守ることを選び、その結果今の状態がある、と。
(何から何を守っているのだ?)
何からハルくんを守っている?
何から夫人を守っている?
あの庭にいた存在を知られていない子も、何かから守る為にあぁしているのか?
一体…小鳥遊には〝何〟がある……?
『あの子たちは、とても可愛かったね』
『えぇ、そうね』
『あの子たちをうちの子に会わせたら、どうなるだろうか?』
『レイヤを…?』
『あぁ。きっと、何かいい刺激を貰えるとは思わないかい?』
小鳥遊の、あの驚くほど心が育ってる双子に…レイヤを会わせる。
きっと、天才が故に心が空っぽになってしまった息子に大きな変化をもたらしてくれるのではないだろうか。
(あわよくば、〝婚約者〟なんてのもいいなぁ)
この世界に男女は関係ない。
婚約など、どうせ会社同士の提携などが目的のものが多い。
小鳥遊は大きい、龍ヶ崎も然り。
婚約を機に提携を結ぶには、互いに申し分ない相手だろう。
(ーーあぁ、いいな)
長い道のりになりそうだが、シェアを取り業界を独占してこれからの方針を決めかねていた龍ヶ崎には、丁度いい出来事だった。
この会社への興味は、尽きることがない。
あの社長へも同様に。
(こんな気持ちになるのは、大学時代に月森を追いかけていた時以来か)
〝?〟を浮かべるトウコの頬を優しく撫でる。
『まぁ、流れに身を任せるけれど…
ーーーーきっと、面白い未来が待っているよ』
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