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その4: 屋敷でのハルの話
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◯リクエスト
アキが学校に行ってた時のハルの様子
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※学園では決算報告会(雷のあたり)が終わったくらいの時間線です。
【side ハル】
チュンチュンと小鳥が鳴く、静かな朝。
ムクリと起き上がって、ベットから出て窓のカーテンを開けた。
ポツリ
「おはよ」
今日も、凄くいい天気。
空には雨雲とか雷雲とかが無くて、安心する。
確か、今日は父さんたちは仕事で夜にならないと帰って来なかったはず。
屋敷には僕1人。
ということは、当然この日出勤してくるメイドの数も減っている。
「ーーよし」
今日も、1人で戦おうーーーー
いつも、朝ごはんを食べて昼ごはんまでは自室で静かに過ごすことにしている。
ベッドサイドの引き出しからノートとペンをを取り出して、パラパラ昨日書いていたページを開いた。
前回アキが帰ってきた時には、特に新しい名前を言ってなかったなぁ。
ってことは、今のところ仲のいいメンバーは増えてないってことか。
ノートにはそれぞれ、アキが口にした名前とその家の事を事細かに記している。
(〝丸雛イロハ〟と〝矢野元カズマ〟が、今のところ1番仲いい友だち)
〝丸雛〟と〝矢野元〟はどちらも大きな家だ。
調べ上げたけど、特にこれといった不正等をしている会社でも無く業績も右肩上がりを続けている。
イロハとカズマも、家が隣同士の幼馴染らしい。
(よくこの2人と仲良くなれたなぁ…どんな子たちなんだろう?)
聞くところによると、イロハは僕たちよりも背が低くて元気でカズマは背が高くてしっかりしてるらしい。
僕が入れ替わったら、何とかアキの為に協力を仰げないかなぁ。
家も大きいし、協力してくれたら凄く助かる…ん、だけど……
「まぁ、僕の頑張り次第だよね…」
(願わくば、僕に成り代わってるアキに気づいてくれたら嬉しいんだけど…それは流石に無理かぁ……)
ペラリと次のページを開く。
同室者の〝佐古ヒデト〟。
着崩した服に赤い髪、ピアスを沢山つけた一匹狼のような人物。
彼に関しての情報は、驚くくらいに何も出てこなかった。
(〝佐古〟って聞いたことないしなぁー、アキも「再婚して名字変わったらしいよ」って言ってたし)
新しい名字を名乗ってないところを見ると、多分新しい家に馴染めなかったのだろう。
ということは、家とも決別してる感じなのかな…うぅーん、厳しいなぁー……
アキが放っておけなくて声をかけた人物。
そんな人なら、僕だって当然放っておきたくない。
でも、協力を仰ぐのは難しいか。
大きい事するし、一般の家じゃとても太刀打ちできない。
(となると、当然〝星野タイラ〟も…無理)
〝星野〟は人情溢れるいい会社だと調べた結果分かった。
だが、いかんせんまだ成長途中のようらしい。
(これからまだまだ大きくなっていつかは丸雛たちに並んで来るとは思うけど…そんな中声をかけるのは駄目……だよね)
もし声をかけて「協力したい」と言われても、この子に関しては裏方をお願いしようと思っている。
失敗するリスクを考えると、僕ひとりじゃこの子の家を庇いきれない。
星野タイラの次のページに書かれているのは〝月森 ミナト〟
ポツリ
「〝月森〟か………」
はっきり言って、絶対に協力を仰ぎたい人の1人。
寧ろ中心となって頂きたいレベルの人間。
(きっと僕なんかよりも頭が切れるだろうし、アキを救うのにも本気になってくれそう……だけど………)
〝月森の主人はひとり〟であると、聞いている。
もし月森ミナトが〝ハル〟の事を主人と認めているなら、入れ替わった時当然ハルである僕の言うことを聞いてくれると思う。
ハルを演じてる〝アキ〟を主人と認めても、当然主人を取り戻す為全力で動いてくれるだろう。
だが、きっとこの人は〝どちらを主人にすべきか〟でたくさん迷うのではないだろうか……
(僕的には、アキを主人にして欲しいんだけどな…)
今までも今も、アキには辛い事だらけだから
どうか…どうか側で、守って欲しいと思う。
(うーん、僕は月森じゃないから分からないけど、多分この件に関してはこの人かなり悩むんじゃないかなぁ……)
場合が場合、特殊すぎる。
だって主人だと思ってた人物が、全くの別人だったなんて。
「きっと、秘密を知ったら傷つけちゃう…よ、ね………」
だが、傷つけるのは月森ミナトだけじゃない。
「ーー〝龍ヶ崎 レイヤ〟」
彼も、傷つけてしまうだろう。
彼の場合は、もっと酷いだろうな。
ベッドから取れるところ…すぐそこに飾ってあるメダルを見つめる。
体育大会後に、アキはあの龍ヶ崎レイヤからメダルを貰ったらしい。
調べところによると、彼は天才で人間を全く顧みない、学歴や肩書き・それぞれの家で人を判断するような人なのらしい。
(要するにまとめると、〝外見ばっか見る空っぽ人間〟)
そんな奴が、「功労賞はお前だ」と体育大会に参加してないアキにメダルをくれたらしい。
「これは、ねぇ………」
多分、これから龍ヶ崎レイヤはアキの事を好きになるんじゃないかな。
少なくとも、気はあると思う。
(それとも、もうその想いに気づいてるかな?)
この前帰ってきた時、アキの様子がおかしかった。
今までは凄く楽しそうに学園のことや婚約者である龍ヶ崎レイヤの話をしてたのに、いきなり泣きそうに笑うようになった。
(多分、この前の雷が原因……かな?)
大きな雷が鳴った日があった。
「その日、龍ヶ崎レイヤに雷が苦手な事がバレてしまった」とアキは話していた。
ということは、その時2人は一緒にいたってことだ。
1人で耐えてなくて凄く安心したけど、龍ヶ崎レイヤに縋ったことによってアキに何かしらの変化があったのではないだろうか。
多分、龍ヶ崎レイヤにも……
(まぁ、アキはその辺は教えてくれなかったけど…何となく察せるかなぁ……)
こうなる事を、実は望んでいた。
でも、これからくる悲しい未来にアキは気づいているみたいで…
「僕は龍ヶ崎レイヤなんて、どうでもいいんだけどな…」
ただ、アキに幸せになって貰いたいだけ。
(待っててね)
まぁ、龍ヶ崎レイヤには傷ついてもらおう。
そっから跳ね上がってきて貰わなきゃ、アキには釣り合わない。
ポツリ
「僕は厳しいよ、レイヤ」
勿論、アキの為に協力してくれるよね……?
(寧ろ、気づいてくれるといいな)
それとも、もう〝ハル〟の中にいる〝アキ〟に気づいてるかな?
ふふふ、龍ヶ崎レイヤには早く会ってみたいと思う。
残すところは〝櫻ケイスケ〟と〝梅谷シュント〟。
調べてみると、2人はあの学園の卒業生だった。
ということは当然それなりの家の筈だ。
どうかな…先生って立場もあるだろうし、難しいだろうか。
でも聞くところによるといい先生みたいだし…
もしかしたら可能性あるかな……?
(まぁ、この辺りも僕の頑張り次第だよね)
僕ひとりでは何もできないから、入れ替わったその日に協力を仰いですぐにアキを助けに行く。
ーー最短では、これしか無理だ。
(ごめんね、アキ)
ただでさえ辛いのに、もっと辛い思いをさせちゃうね。
でも待ってて。
たとえみんなが協力してくれなくても、僕ひとりで直ぐに助けに行くから。
パラパラとノートをめくって空白のページを探す。
(確か、レイヤと月森先輩が協力してくれた場合の時まで考えてたんだっけ)
じゃぁ、次はそれにプラスしてイロハとカズマがもし協力してくれたならどうなるかを考えなくちゃ。
リスクを最大限にまで無くして、全力で両親に挑みたい。
その為にたくさん考えて、どのパターンになってもいいように考えておかなければ。
カチッとボールペンを出して、またノートに打開策を書き始めたーー
お昼ご飯を食べた後。
今日は部屋をそっと抜け出して静かに父の書斎へ入り込む。
(一昨日はあの辺りを探したから、今日はこっち側を…)
何か、何か〝母さん〟に関する情報は無いのか……
母さんがアキを嫌ってるから、今こうなっている。
母さんがなんで嫌っているのか…母さんが飲んでいるあの薬は、一体なんなのか……
何かひとつでも分かったらそれだけで武器となるのに……
それなのに、何ひとつ見つからない。
(この部屋にも、無いのかな……)
後はどこを探せば良いんだろう?
父さんと母さんの部屋にも忍び込んだけど何もなかった。
今は屋敷に来ない月森さんが昔使ってた部屋を見ても、何もない。
(何処かに…無いの………?)
「ッ、ゴホッ、ゴホゴホッ」
書斎にはたくさんの本があるから、日光から本を守る為いつもカーテンが閉められている。
そこに長くいた所為なのか、温度が低くて体が冷えてしまっていた。
(嗚呼もう…ほんっと使えない体)
自分が嫌いすぎてどうしようもない。
走ることもできないし、アキみたいに満足して外で遊ぶことも出来なかった。
「っ、コホッ、コホッ」
(あー咳止まらなくなっちゃったよ)
埃が溜まってる所為もあるかな?
カーテンが閉められてる分暗いから、きっとそういったハウスダストが溜まりやすいのだろう。
(咳なんかしてたら廊下通ったメイドに気づかれるし、走れないから逃げるなんてこと…できないし……)
ーー今日は、ここまで…か。
大人しく部屋を出て、静かに自室へと戻った。
(多分、父さんは気づいてるんだよね)
僕が母さんについて屋敷内を調べていることに。
でも、それなのに何も言ってこない……
どうして?
バレないとでも思っているのだろうか?
(まぁ月森さんが付いてるしね…その辺りは完璧なんだろうな)
だったら、もういくら屋敷を調べても無理?
いや、諦めたくない。
何か…何か情報を掴んでからアキと入れ替わりたい。
咳がようやく治ってベッドから窓の外を見ると、もう日は落ち始めていて。
(もうそろそろ夕焼け……)
また今日も、何も収穫はえられず…か。
ポツリ
「あーぁ、悔しいなぁ」
父さん強すぎだよ本当。
何処かにヒントは無いの?
(明日の両親のスケジュール、この後メイドに聞いとこう)
それで、動けそうならまた明日も動いていこう。
「ーーよし」
(アキ、待っててね)
できることは全部やって、必ず助けるから。
だから、願わくば…どうか……
(学園でみんなとたくさんの思い出を作って、笑って欲しいなぁ…なんて)
ーーーーそしてそこに僕がいれたら、どんなに幸せなんだろう?
病気でもなんでも無いのに心臓がキュゥッとなって、じわりと涙が浮かぶ。
それをグイッと拭って、
両親との夕食まで少し寝ようと、目を閉じたーー
fin.
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