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sideアキ: 仲直り

「……ん、んぅ………」 ふと、意識が浮上する。 (ここ、どこだろ………) 見覚えのない真っ白い部屋に寝かされていて、訳もわからずぼぉっとする。 「ぁ、アキ……?」 「…………ハ、ル…?」 「っ! アキ!」 パッと視界に見知った顔が入っていて、涙目で笑っていた。 (あれ? 俺、何してたんだっけ……) 確か、学校の屋上で寝てたらレイヤが来てくれて……それから屋敷に帰って、そしたらみんながいて……それからーー 「ーーーーっ!! わっ、」 「ぁ、ちょっ、アキ」 ガバッと起き上がったのに全然力が入らなくてふらついてしまう体を、ハルが支えてくれる。 「ハ、ル…ハル、だいじょうぶ……っ?」 (あんなに…血、吐いてた……) 「僕は大丈夫だよ、あんなの慣れっこだからねっ。まぁまだちょっとクラクラするけど、でも平気」 「っ、」 力強く笑うハルに、安堵して泣きそうになる。 「俺…どれくらい、寝てたの……?」 「丸2日かな。新しい場所じゃあんまり寝れてなかったみたいだね……」 「…ぅん。大きな雷が鳴って、それから、全然……」 「そっか…もう大丈夫だよアキ」 「ん、ありがとハル。ね、此処どこ……?」 「病院だよ。あの後僕らが運ばれた処」 「びょう…いん……」 「ふふっ。まだぼぉっとするねぇ、よしよし。 取り敢えず、アキが目覚めたら知らせるように言われてるから先生呼ぶね」 ハルの手が、近くにあるナースコールを押した。 「うん、君には今週いっぱい入院してもらおうかな」 「ぇ、」 病室に来てくれた年配の医者が、微笑みながら頷いた。 「このところ、体重が急激に減ったり増えたりしているだろう? 心当たりあるよね?」 「ぁ………」 (文化祭と、屋根裏部屋の雷……?) 文化祭では、ストーカーに嫌という程追い詰められて食べ物が喉を通らなかった。 それからハルと入れ替わる為たくさん食べて何とか体重を元に戻して、でも結局屋根裏部屋での雷の所為でまた食べれなくなって…… 「だからね、君の体は少しびっくりしているみたいなんだ。 この辺りで一度しっかり落ち着いて、休んだ方がいい」 「は、はぃ、わかりました……」 「先生、僕も一緒にいていいですか?」 「勿論。この子が不安だろうからね、一緒にいてあげなさい」 「有難うございますっ!」 「それじゃあ、何かあったら直ぐに知らせるように。また来るね」と言って、先生は静かに出て行ってしまった。 「いい人だね」 「ね、優しいお医者さんだね」 「俺たちのこと知ってるの?」 「分かんない。月森さんが話をつけてたけど……多分良いように言ってるんじゃないかな」 「そっか」 月森さんの事だ。恐らく俺たちは首を突っ込まない方がいい。 「ね、ハル」 「ん?」 「ハルもこっち来て、一緒寝よう?」 ベッドの端にずれて、空いたスペースをポンポン叩いた。 「ハルもまだ本調子じゃないでしょ? さっきまだちょっとクラクラするって言ってた」 「っ、ふふふ、そうだね。じゃあお邪魔する」 スリッパを脱いで、同じ病院用の服を着た体が楽しそうに潜り込んでくる。 「なんか久しぶりだね、こういうの」 「うんうん、本当に久しぶり…… ぁ、ってか、俺ハルに謝らなきゃいけないことがあっtーー」 「あっ、ちょっとストーップ!」 続きを言おうとする俺の口を、ハルの手がもごっと抑えた。 「喧嘩のこと……だよね?」 「ん、ん!」 「あれはさ、もういいよ。僕もついカッとなっちゃって…… でもアキの言い分ね? あの後考えてやっと分かったんだ。アキも、どうして僕が怒ったか分かったんでしょう?」 コクコクッと頷くと、笑って手を離してくれる。 「……ハルは〝俺がみんなにちゃんと愛されてるよ〟って言いたかったんでしょ?」 「うん、そう。 アキも〝僕はひとりじゃないよって…ちゃんと愛されてるんだよ〟って言いたかったんだよね?」 「うん、そう」 ベッドへ横になったまま互いに両手を繋ぎあって、コツンとおでこをぶつけた。 「あの時は全然わかんなかったけど……ちゃんと分かったよ、ハルの言い分」 〝みんなが、ハルの中の俺に気づいてくれていた〟 この事実をレイヤが教えてくれたからこそ、分かることができた。 (俺は、ひとりじゃなかったんだ……) ずっとずっと独りよがりだと思ってた。 みんなの思い出の中にいるのは俺じゃなくハルであって、だから俺はひとりだって…… でも、そんなのはただの思い込みだった。 だからみんなは本物のハルと入れ替わった時違和感を感じてくれたんだ。 「僕も、みんなと初めて会って分かったんだよ。みんなに本当の事を言っても、ちゃんとみんなの中にハルが…〝僕〟が残ってたんだ。 あぁ、僕1人じゃなかったんだなぁって…本当に涙が出ちゃって…… あ、あのね? イロハとカズマが友だちになってくれたんだ!後タイラも。みんなみんな凄くいい人たちだね」 ふふふと一緒に笑いあって。 「ごめんなさいアキ、僕強く言っちゃったね」 「んーん、俺もごめんなさいハル。傷つけちゃったね」 「おあいこでしょっ。 ね、喧嘩なんて初めてしたね」 「そうだな、これからもっとするのかな」 「してもこうやって仲直りしていこうね?」 「うん、するっ」 今は、まだお昼の時間帯。 みんなは学校に行っていて、「終わったら来るって言ってたよ」とハルが教えてくれた。 「ふ、あぁ…… なんか、安心したら眠くなってきた………」 「ん、僕もねる……」 布団をかけ直して、互いに身を寄せ合って手を握りながら ストンと、一緒に眠りに落ちて行ったーー

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