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【おかえり編】sideアキ: ちょっと待って 1
[おかえり編]
「ちょ、ちょっと、レイヤ待っ」
「却下だ。おら、行くぞ」
俺の腕を掴んだままずんずん大股で歩いてくレイヤにズルズル引きづられる。
(は、え、んん?)
何これ、えっ、何だこれ………?
今日は退院の日。
みんなが迎えに来てくれて、その中には忙しいだろうに龍ヶ崎夫妻も駆けつけてくださっていた。
俺とハルで「お世話になりますっ」と一緒に頭を下げると「何って可愛らしいの!!」と抱きつかれて(レイヤに直ぐに引き離されたけど…)
そのまま、レイヤのお父さんの「よし!皆んなで退院祝いにご飯食べに行こう!」という一言で、わいわい外食をした。
それから、みんなは梅谷先生の車で学園へ。
俺とハルとレイヤは龍ヶ崎夫妻の車で龍ヶ崎の屋敷に来た。
本当ならハルとレイヤも学園に帰らなきゃいけないけど、「明日朝一で帰るから」と一緒について来てくれて。
俺はまだ学園に戻れない。
告知と学園への編入手続きが、正直言ってかなり難航しているからだ。
普通の学校だったら簡単なんだろうけど、あの学園だからなぁ…当たり前か。
各業界の子どもたちがこぞって通っている。
噂ごとの大好きな、何とも生きづらい世界の子たちだ。
そんな中でいきなり〝小鳥遊の息子は本当は双子だった〟と言ったら、どうなるか……
きっと生徒だけじゃなく親も一緒になって、色々動くんだろうな。
小鳥遊の事を調べられてあぁだこうだ言われるのは、絶対に嫌だ。
(まぁ、俺も本名で通う心構えはまだ出来てないし…ってかイロハたちともまだ気まずいから……ちょっとだけ時間貰えて良かったのかも)
病院でみんなと何ともないように話せてたのは、隣にハルがいたから。
きっと1人だと、上手く話せない。
さっきもご飯中、ハルの隣から全然動けなかった…ハルも気づいてるな……
「こっちおいでよ!」って呼ばれたのに、結局全然俺の隣から動こうとしなかった。
多分、俺を1人にしない為だと思う。
そういう何も言ってないのに分かられてるっていう感覚は、やっぱり不思議だ。
なんて色々考えてたら、お屋敷に着いて。
「わぁ……!ハル、綺麗な家だね!」って声をかけようとした、瞬間ーー
グイッ!
「ぅわっ、ちょ、レイヤ……?」
横から無言で腕を掴まれ、片手で車のドアを開けられる。
「降りるぞアキ」
「はっ? ぇ、なんーー」
「あぁもーまったく……少し屋敷の中案内する時間ぐらいくれればいいのに。ねー母さん」
「本当よもう。折角お茶とお菓子も用意していたのに」
「っせぇな。お前らもう黙ってろ」
「レイヤっ、アキのこと傷つけたら承知しないから。ちゃんと約束したからね!?」
「わかってるよ」
「ぇ、」
(なんでハルこの状況理解できてんの?)
呆れ顔のハルを見つめると、クスリと苦笑されて「頑張ってね」と手を振られた。
「ん、ハル? 頑張ってって一体……っ、わ」
まだ話途中なのに、グイグイ強い力に引きずられ強引に屋敷の方へ歩かされてしまって。
「いい? ほどほどにするのよ!明日はちゃんと皆んなで朝ごはん食べるからね? 私作って待ってるから!」
と言うレイヤのお母さんの声を、背中越しに聞いたーー
…………で、今。
「おかえりなさいませ」と出迎えてくれるメイドたちをフル無視して、ひたすら長い廊下を歩いていってる。
ぇ、なになに?
これどこに向かってんの?
いくら聞いてもレイヤは前を向いたまま、何も答えてはくれなくて。
何で俺だけなんだろ…何かしたっけ……
え、何したの俺……
レイヤ全然喋ってくれないし笑ってくれないし、もしかして俺怒らせてる?
え、何を怒らせたの? 俺別に何もやってなくね? それとも無意識に何かした……? 嘘…まじ……?
身に覚えが全く無くて必死に頭の中で考えてると、ピタリとレイヤの足が止まった。
「へ? ーーぅわっ」
ガチャッ!と目の前の扉を開け、入った瞬間直ぐに閉められて。
暖房が付いてる暖かい部屋の中、また強引に腕を引っ張られる。
そして、そのままーーーー
ボスッ
「わぁっ、て、ん……?」
倒されたのは、ベッドの上。
仰向けの俺に、レイヤが上着を脱ぎながら跨ってくる。
(ぇ、なにこれ)
状況が全く理解できなくて、呆然と見上げると……
ーーそこには、ネクタイを緩めながらこちらを見下ろす顔があった。
「悪りぃなアキ」
「…ぇ、な、にが……?」
「散々我慢させられて、こっちはもう限界なんだよ」
「へ、」
その顔が、最高にかっこよく、ニヤリと微笑んだ。
「ーーーー抱かせろ、アキ」
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