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「わぁ……っ!」 みんなのいる体育館のパーティー会場へ向かう途中の道。 大きなモミの木がいくつも立っていて、イルミネーションの光が凄く綺麗。 (本当に、おもちゃ箱みたい) イロハが言ってた通りだ。 いろんな色のキラキラがたくさん付いていて、見るだけで心がワクワクする。 「俺、こんなに大っきいクリスマスツリー見たの初めてです…」 「クスッ、そうですか。これからは毎年見れますね」 「まい…とし……」 (そっか、もうずっと見れるんだ) こんなに綺麗なものが、毎年。 それだけですっごく幸せで嬉しくて泣きそうになる。 「来年は、一緒に飾り付けもしましょう」 「! 良いんですか…!?」 「えぇ。この学園のツリーは、全て生徒達が思い思いに飾るよう生徒会が指示したんですよ。ですから、恐らく来年も同じでしょう」 (レイヤ達が、また指示してくれるってこと?) それはとても嬉しすぎる。 …あれ? でも手が届かないところとかはどうやって飾り付けするんだ? 「クスクス、梯子を使うんですよ。先生方の手が空いている時は車を出してくださいます」 「ぁ、そうなんですね」 高いツリーを見上げる顔を見て一瞬で何を考えてるか分かったのだろうか? 先輩流石です… 「さぁ、丸雛くん達が待っていますよ。会場へ向かいましょうか」 「はいっ。 ぁ、先輩あの、これ…」 袋から出して、ふわりと先輩に手渡す。 「……これは、ストールですか?」 「そうです」 大きめの、肩から掛けれるストール。 いつも先輩は俺たちのために色々考えてくれてるから、きっと夜遅くまで起きてるんじゃないだろうかと考えて。 夜は寒いから部屋で羽織れるようにって、大きめのストールにした。 「綺麗な色ですね」 「先輩の眼鏡が銀色だから、銀を主として…後は朱色と薄桃色を……」 俺とハルの色を、飾りで少しだけ入れてみた。 どうだろうかと見ていると、意図が分かったのか先輩の目がハッと見開いて、それからゆっくり嬉しそうに綻びはじめる。 「これは、私とお二人なのですね」 「は、はいっ、そのつもりで作りました…」 「アキ様、ありがとうございます。大切に使わせていただきます。 私からも、これを」 「え、わっ」 両手の中に置かれた、綺麗にラッピングされた箱。 「先に渡そうと思っていたのですが、私の方が先に頂いてしまいましたね。申し訳ありません」 「なっ、そんなの全然! 」 ふわりと、先輩がストールをマフラーの様に首に巻きつける。 「あぁ…暖かい。 アキ様、本当にありがとうございます」 「いいえ、喜んでもらえて良かったです……っ」 (は、反則じゃない!?) 凄く嬉しそうに微笑まれて、片手で優しく首元のストールを撫でてくれて。 ボワっと顔が赤くなるのが分かって「ひぃー」っと両手で頬を抑える。 「ーーっ、クスクスッ。 本当、愛らしい方ですね」 「さぁ、参りましょう」と誘導され、再び会場に向かって歩き始めた。 (この中に、入るんだ……) 扉の外からでも聞こえる、ザワザワしてる中の音。 一気に緊張が押し寄せてきて、小さく震える両手をぎゅぅっと握りしめた。 「アキ様、大丈夫ですよ」 「っ、先輩…」 先輩の両手が、俺の両手を優しく包み込む。 「大丈夫。バレることはありません」 「はぃ……」 「深呼吸しましょうアキ様。大きく息を吸ってください」 「すぅぅ………」 何回か深呼吸を繰り返して、やっと視線を上げて先輩の目を見れるようになって。 「少し落ち着きましたか?」 「はい、ありがとうございます」 「それでは、扉を開けますよ。ゆっくりと開けますのでご心配なさらずに。こちらを見る生徒はいても、あまり注目はされないと思いますので」 「分かりました」 「それと、これから暫くの間だけ〝ハル様〟とお呼びします。ご了承ください」 「は、はい……ぁの」 「? なんでしょうか?」 「少しだけ…服を握ってても、いいですか……?」 「ーークスッ、えぇ勿論。幾らでも掴んでいてください」 キュッと先輩の制服の裾を握ったのを確認して 先輩が、静かに扉を開けた。 「う、わぁ………!」 先程までのキラキラしたモミの木を〝おもちゃ箱〟と例えるならば、会場はまるで〝びっくり箱〟のような…… (凄く、煌びやかだ…) とにかくキラキラしてて明るくて。 みんなの楽しそうな声も、聞こえてくる音楽も全てが幸せそう。 「す、ごい……」 「ふふふ。さぁ〝ハル様〟参りましょう」 「っ、はい」 呼ばれて少しだけ緊張してしまって、先輩の手がゆっくり背中を撫でてくれる。 「ぁ、ハル様だ!」 「っ、」 パタパタパタッと寄ってきた二人組。 (確か、親衛隊の子たち…だったよな?) 「ハル様っ、乾杯してください!僕たちまだ乾杯してなくて…て、あれ?グラス持ってらっしゃらない?」 「少し外を散歩していたのですよ」 「あぁ成る程!それでポンチョを着てらっしゃるんですね!」 「それなら暖かい飲み物が良いですね、僕たち取ってきます!」とパタパタ会場内へと消えていって。 ボソッ 「ありがとうございます、先輩」 「いいえ、大丈夫ですよ」 (ある意味ポンチョ着といて良かったかも……) トウコさんマサトさんシズマさん、ありがとうございます。 コップを持って戻ってきてくれた子たちと乾杯して。 イロハたちの元へ向かう途中、何人かから求められた乾杯にも応じて。 先輩の隣にピタリとくっついたまま、会場内を進んでいく。 「〝ハル〟!」「〝ハル様〟!!」 「ぁ、」 (この声は、) 前を見ると、ぴょんぴょん跳ねながら大きく手を振っている人影が2つ。 「イロハと、タイラ…?」 「ふふ、そのようですね」 見つけたテーブルにはカズマもいて、手を振ってくれる。 たどり着いた瞬間ぎゅぅっとイロハに抱きつかれた。 ボソッ 「アキ、大丈夫っ?」 「っ、イロハ」 「ごめんね。おれたち〝ハル〟って呼ぶけど、でも大丈夫だからね?」 「うん、ありがと」 (ちゃんと分かってるよ) 大丈夫、あの頃とは違う。 イロハたちはちゃんと俺のことを知ってる上で、ハルと呼んでくれてる。 だから大丈夫。 寂しさはない。 ニコリと微笑むと、安心したように目の前の顔が緩む。 「クスクス。では外から帰って来られた事ですし、取り敢えずもう一度乾杯しましょうか」 「はいっ!」 不自然にならないように上手く先輩が言ってくれて、みんなで大きく乾杯した。

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