375 / 533
sideカズマ: 車の中で
『カズマ。
ほら、お隣のイロハちゃんが挨拶に来たわよ』
『…イロハ、ちゃん?』
初めて会ったのは、まだ幼稚園に入る前。
うちの玄関先でだった。
母に手を引かれて向かったそこには、
『まぁほら、カズマくん出て来てくれたわよ。さぁイロハ、挨拶しなさい?』
『っ、ぅ……』
お人形の様に綺麗な女の人の足元に隠れてる
女の人そっくりの、小さな小さな影があったーー
(っ、イロハ……)
「大丈夫だから、ハルたちのことよろしくね」と強く笑ったイロハを、信じていた。
だが、やはりそれを破って俺も駆けつけた方が良かっただろうか……
携帯の発信源は、俺の実家から。
「迎えを出すからすぐに戻ってこい」との連絡だった。
連絡など滅多にこない分、このタイミングでこられるとどうしても不安になる。
(恐らく、イロハのことだ)
それは間違いない、確実に。
だが、一体どうして実家からなんだ?
イロハがヘルプを実家に寄越したのだろうか。
それとも、母さんや父さんが「隣の家の様子がおかしい」と連絡をくれたのか……
(っ、)
どちらにせよ、イロハの身に何かが起こった事は予測できる。
(ーー早く、)
早く、行ってやりたい。
駆けつけて、今1人で戦っているあの小さな体を抱きしめてやりたい。
「もう大丈夫だから」と、あのふわふわな頭を撫でてやりたい。
(っ、くそ…)
こんな気持ちになるなら、1人で行かせるんじゃなかった……
「カズマ」
「カズマ、大丈夫だよ」
「っ、アキ…ハル……」
梅谷先生に許可をもらって迎えに来た車に一緒に飛び乗った2人に、それぞれ手を取られた。
「大丈夫、一旦深呼吸しよ」
「落ち着こうよ。そんな顔で会いに行っちゃ、きっとイロハが心配するよ?」
「ーーっ、あぁ、そうだな」
その言葉は、俺がさっき2人に投げかけたもの。
(あぁ、本当に……)
両サイドから握られている両手から2人の温度が伝わってきて、それに集中するよう目を閉じて心を落ち着かせる。
「後でレイヤと月森先輩も来てくれるって言ってた」
「わぁ、それならきっと大丈夫だね。
取り敢えず着いたら現状把握しよっか。それから考えたほうがいいかもね」
「うん、そうだなっ。それとーー」
テキパキと2人の間でこれからどう動くべきかの話し合いが行われてて、本当に心強くて。
(落ち着け)
そうだ、落ち着け。
焦るなんて俺らしくないだろ、余裕を持て。
考えろ。
車から降りたら、先ず何をするのかをーー
(2人がいてくれて、良かった)
ゆっくりと目を開けて、繰り広げられている会話に入った。
ともだちにシェアしよう!