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sideアキ: 矢野元の家、待っていたのは
「「わぁ………!」」
車から降りた先は、これぞ日本の家って感じの和風色溢れるどっしりとした一階建ての建物だった。
(これが、矢野元の家……)
木造で古い作りにも関わらず綺麗に手入れされている門を、見上げる。
そして、隣が……
パッと隣を見ると、これまた和をイメージしているような2階建ての立派な家が佇んでいた。
(イロハ…っ!)
あの家の何処かに、イロハがいる。
帰ってこない…これないのを見ると、恐らく閉じ込められてるのか……
「ハル、アキ。取り敢えずうちに入るぞ」
「「うん、分かった」」
隣の家を睨みながら、カズマに案内されてゆっくりと門をくぐったーー
「木のいい匂いがするね、アキ」
「そうだな」
家の中は木造の作りで、とても落ち着くような雰囲気が広がっていた。
「おかえりなさいませ、カズマ様。こちらの部屋でお待ちください」
「父さんと母さんは?」
「間も無くいらっしゃいます」
「分かった」
使いの人に言われ指定された部屋をカラリ…と開ける ーーと、
「っ! お前…どうして此処に……?」
「「?」」
カズマの、びっくりした声。
その背中からそろりと顔を出すと、パンツスーツに長い黒髪を後ろでひとつに束ねている1人の女性が、ハンカチで口元を押さえながら座っていた。
「カ、ズマ…様……」
俺たちの姿をとらえた瞬間、既に赤く腫れていた瞼からまた涙が溢れ出す。
「カズマ様…申し、訳……ありま…っ、」
「どうして此処にいるんだ。隣はどうした……?」
「っ、もう、私、では……」
「何言ってるんだ。
お前〝丸雛の月森〟だろっ?」
「「ーーっ、ぇ」」
〝丸雛の月森〟
この女性が、丸雛の月森なのか……
そういえば丸雛の月森は女の人って言ってたっけ?
それが、どうして矢野元に?
今が丸雛の危機なんじゃないの?
イロハはどうしたの? 無事なの…?
一体、どうして貴女はそんなに泣いてるの……?
「………ね、カズマ。先ずは座ろっか」
背中をポンポンと撫で、ハルがポツリと言う。
「っ、あぁ、そうだな」
ようやく動き出した背について行くよう、部屋の中へ入った。
「さて、全員揃ったな」
カラリと入ってきたのは、和服を着た男性と女性。
一目でカズマのご両親なのだと分かる。
カズマは、目はお父さん似なんだな。
口元や耳の形はお母さん似だ。
「カズマ、おかえり。正月ぶりの早い再会だな」
「あなた方もいらっしゃったのね、小鳥遊さん」
「「は、初めまして」」
「初めまして。私たちはカズマの父と母だ。突然呼び出したカズマについて着てくれたそうだね。ありがとう」
「きっとカズマも心強かったわね」
「いえ、そんな…」
「カズマの事が心配だったので……イロハの、事も」
チラリと丸雛の月森を見ると、体を震わせながら下を向かれてしまった。
その背を慰めるよう、一足先に部屋へ入って来た背の高い柔らかな雰囲気の男…矢野元の月森が寄り添っている。
「父さん、どうして丸雛の月森が此処に? 隣はどうしたんだ」
「あぁ、それについては我々もまだなんだ。お前を呼んで欲しいと言われてな。聞くところによるとイロハくんも学園に通えていないようだし……まぁ、揃ったから話してもらいたいところだが ーー月森」
「はい」
「丸雛の月森は大丈夫か? 話せそうな状況なのか?」
「そ、れは…」
「話せます…お話しいたします……っ、」
深呼吸して、ゆっくりと紡がれるその声。
心配そうに見つめる矢野元の月森さんに頷いて、丸雛の月森さんがギュッと俺たちの方を見た。
「もう、私の力ではどうにもなりません……
月森としてこんなに恥ずかしく…無礼なことはありません……ですが、それでも…私はただ見ていることなど…、もう出来ません……!
お願いです、どうかイロハ様を…丸雛を、お助けください……っ、」
たくさんの涙を溜めながら、ゆっくり畳におでこを擦り付けるように頭を下げた。
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