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「私のこの判断は間違っていなかったと、今でもはっきり申し上げられます」 それくらいに、私は齢4歳にしてしっかりと主人の判断ができた。 あの時感じたパズルのピースがハマるような感覚は、今でも鮮明に覚えている。 「丸雛の家も、月森が来たことをとても喜んでおられました」 『これは可愛らしい月森が来たねぇ』『うちにピッタリじゃないか!』と、幼い私を温かく受け入れてくださった。 「ですがーー」 (だが、) 「その時期が、あまりにも〝早過ぎた〟のです」 もしも自分の隣に何でもしてくれて何でも言うことを聞いてくれる存在がいたら、人はどうなる? 大人になった者やある程度自分をしっかりもっている者、そして精神的に強い者は、その存在を上手く使うだろう。 だが、それは精神が弱ければ弱い程…… ーー人間が、腐ってしまうのだ。 「ミサコ様は、私に依存しはじめました」 何をするにも、私がいなければ出来なくなってしまった。 些細なことであっても行動を共にし、どんなことでも頼られた。 「ですが、ミサコ様は決して破天荒で我儘な方ではありません。丸雛の次期社長として、月森ほどではありませんが基礎的な教育は受けておいででした」 だから礼儀作法などひと通りのことは全て身につけてらっしゃった為、1人で何でも出来るように見えた。 だが、そういった外側の見える部分ではなく内側の精神的な部分…心の部分は、全面的に私に依存していた。 「周りの期待が、とても大きかったのです」 丸雛として次期社長となる事を幼い頃から告げられ、更には齢4歳にして月森を付けた。 それに、周りの目が一層増したのだ。 『ミサコ、お前は絶対いい社長となりなさい』 『はい、おとうさまっ』 『そして、そのままいい男の人と結婚して子どもを作るのよ』 『はいっ、おかあさま』 いつもいつもご両親はまるで能面のように、ミサコ様へ告げていた。 『いいかい? 必ず〝女の子〟を産むんだ。絶対にだよ。そうしなければ私たちはこの座に居られない』 『丸雛の分家なんていくつもあるから、ミサコのライバルなんていっぱいいるのよ? だから、早くいい人を見つけて早く〝女の子〟を産みなさい。いいわね?』 『はいっ、わかってます。おとうさま、おかあさま』 「もう毎日 毎日…ご両親は呪文のようにそう仰られておりました。当時の私はそれがとても恐ろしく、そしてその中で笑って返事をされているミサコ様の心を支えたいと必死で… 依存されてはならないと教えられてきたのに、ずっとミサコ様の心に寄り添っておりました……っ」 このままでは彼女は壊れてしまうと、幼ながらに思った。 私が主人を早く見つけられたのは、きっと早く支えないと主人が壊れてしまっていたからだ。 小学校・中学校・高校・大学…… ミサコ様が、せめて家の外では心から笑えるようにと…全身全霊をかけてサポートした。 ミサコ様も全面的に私に心を依存させ、精神面を保っておられた。 そしてーーーー 「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」 「? はい、アキ様いかがなさいましたでしょうか……?」 「あの、どうして女の子を産まないといけなかったんですか…?」 「僕も気になりました。どうして両親はそんなにも強要していたんでしょうか…?」 「それはーー」 「私が話そう。 皆さん、まずはお茶を飲みなさい」 コホンと咳払いをして、カズマ様のお父様…矢野元の当主が笑った。 「私の前で私が出したお茶が冷えるのを見るのは心苦しくてね。取り敢えず筆休めだ、少し飲みなさい。丸雛の月森、貴女も」 「ぁ、は、はぃ…申し訳ありません……」 流石はお茶の御本家。 慌てて口に含んだその味は、とてもまろやかで優しい風味だった。 「さて小鳥遊くん。どうして丸雛の家では女の子が喜ばれるか、だね?」 「「はい」」 「それはね、 丸雛に生まれた女の子しか、丸雛の社長になることが出来ないからだよ」 「「…………え?」」

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