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「どの世界も厳しいが、どうして和菓子の業界において丸雛が1位の支持率を上げているか知ってるかい?」 「し、知らない…です……」 「僕も……」 「それはね、丸雛のつくる和菓子ひとつひとつが、とても繊細だからなんだ」 皿の上にひとつだけ乗っている、和菓子。 そのひとつの存在を繊細に…そして驚くほど季節感溢れる風貌へと仕上げてきた丸雛の技術の高さとデザイン性は、他に類を見ない。 「食べるのが勿体ない」という言葉を誰もがかけるほど、きめ細やかで美しいのだ。 「あの小さなお菓子ひとつに、様々な世界が広がっている…あれこそ正に日本の技術だと海外でも絶賛されているね。 あそこまでのものを作れるのは、女性の感性だからなんだ」 女性特有の繊細さ、そして手先の器用さ。 それにユーモア溢れる発想が乗っかれば、それはより美しく…そして綺麗なものへと進化を遂げていく。 「社長というのは男性が多い。そんな中、丸雛は敢えて歴代ずっと女性の社長で生きてきた。それが上手く和菓子というひとつの芸術品と融合し、今の地位があるんだ」 このやり方で丸雛は成功を得た。 だから、これからもずっとその歴史を変えることなく、丸雛は女性の社長を立てていく。 「だからこそ、イロハくんのお母さん…現社長は、両親から『女の子を生むように』とせがまれていたんだ。 ーーここまでが、我々が知る丸雛だな」 コホンとひと息吐かれて、矢野元の当主は顎に手を当て「うーん」と首を捻った。 「まぁ、そんな背景だからこそイロハくんは女として育てられて来たのだろうというのは、こちらも察していた。 だが、どうして現社長はイロハくんの他に子どもを作らなかったんだ? 彼は男の子なのだから、次は女の子をともう1人子を作ればいい話だと思うのだが…体が弱かったのだろうか? イロハくんに対してもそうだ。いつまでも女の子として通るわけじゃないし、現に今トラブルが起きている。周りの分家にも彼が男であることは随分前にバレているだろう? それなのに、どうしてここまで放置していたんだ?」 「バトンを返してもいいかな?」という風にちらりと目線をもらい、静かに頷いた。 「はい、お話しします。 ミサコ様は、決してお身体が弱い方ではありません。とても健康で丈夫な方です。成長するにつれ、だんだん丸雛の社長としての風格を身につけられ、早いうちから活躍されました」 大学在学中から既に会社の中核へと入り、卒業と同時に社長へ就任した。 そこからは、どんどん新しいデザインや一風変わった企画などを打ち出し、丸雛の業績は更に伸びていった。 「そしてご両親の言いつけ通り、ミサコ様は若くして結婚しました」 相手方の家柄も、丸雛と並ぶほどのもの。 ご両親も相手方もとても喜んでらっしゃった。 ーーその後程なくして、ミサコ様はお腹へ子を宿した。 「お腹の子については、性別の検査等特におこないませんでした」 『検査? しないわよっ。だって女の子ですもん』 自信たっぷりに微笑まれ、大きくなったお腹を優しく撫でるミサコ様。 ご両親も、そんな娘にとても安心されているご様子だった。 ……ですが、私は。 (もしも…もしもこれが男の子だった場合、ミサコ様はどうなられるんだろうか……) もしも仮に、自分の腹から生まれてきた子が男だったら…… ーー彼女はきっと、本気で壊れてしまうんじゃないだろうか。 『…………っ、』 カタカタ震える指先をぎゅっと握りしめ ただひたすらに、『女の子を』と神に祈った。 だが、 その運命は、皮肉にも 『オギャァァァ、オギャァァァ!』 『おめでとうございます! 元気な〝男の子〟です!!』 私たちに、牙を剥くのだーー

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