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「産まれてきたのは、男の子でした」 ご両親は勿論、私も顔面蒼白で。 そんな中、ミサコ様だけは嬉しそうに笑ってらっしゃった。 『ミ…ミサコ様……』 『? なぁにスズちゃん』 その笑顔が酷く不気味で、背筋が凍る。 『あの……っ、お、男の子…です、が……』 『あら、何を言ってるの? この子は女の子だわ?』 『ーーぇ?』 驚く私に、ふわりと微笑まれた。 『な、何を言ってるんだミサコ!この子はどこからどう見ても男の子じゃないか!』 『どこからどう見ても? この子のどこを見ているのお父様?』 『どこをって、身体が…!』 『身体? 身体が男の子でも、この子は女の子だわ?』 『……は?』 『ねぇお母様。この子は女の子よね?』 『ミ…サコ……あなた…』 何を言っても全く通じない。 それはまるで、人としての何かが欠落してしまったかのようなーー (……あぁ、そうか) きっとミサコ様は、この子がどんなモノでも女の子と言うのだろう。 例えばそれが猿の子でも、犬の子でも… 幼いころからただただずっと言われてきた言いつけを守り『自分は女の子を産んだのだ』と、笑うのだろう。 そうしなければ、自分の存在価値を…自我を保っていられないのではないか…… ミサコ様のご様子に、ご両親もようやくこれまで自分たちがしてきた事を痛感された様子だった。 『自分たちの行いで娘を壊してしまったのだ』と、項垂れていた。 「ミサコ様は、2人目を作ることをしませんでした」 『何を言ってるの? この子は女の子なのだから、もう子どもは必要ないでしょう?』 『自分は役目を果たしたのだからもういいじゃないか』と求められる性行為を拒み、子どもを作らなかった。 それに旦那様は酷く怒り『この結婚は間違いだった、狂っている』と離婚を申し出た。 当たり前だ…誰がどう見てもミサコ様は狂っているように見えるだろう。 自身の息子を娘と呼び幸せそうに抱きかかえるその姿は、きっと狂気だ。 旦那様との離婚が成立し、旦那様は自分の息子とミサコ様を捨てるように出て行かれた。 親1人子1人…ご両親も周りの丸雛の分家も、皆が驚く事態。 しかしただ1人、ミサコ様だけは物怖じせず日々を過ごされていた。 『スズちゃん。 この子の名前はね、〝イロハ〟と言うのよ』 『イロハ…ですか?』 『えぇ、そう。日本の数え言葉の1番最初の部分。 丸雛は和菓子の家だし、だから日本の名前にしたいの』 〝いろはにほへと〟の始めの3文字。 古くから〝いろは式〟という数え方があるように、その名前は正に由緒ある丸雛の子に相応しいものだった。 ーーただ、性別が男である事を除いて。

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