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「勿論、丸雛には男もおります。
社長にはなれずとも会社の中核として日々働いており、丸雛には無くてはならない存在です」
だから、別にミサコ様が男の子を産まれても丸雛には何の問題も無かった。
だが、周りの圧力と両親の言葉が……ミサコ様の世界を大きく変えてしまった。
「ミサコ様が…社長が狂っていると、当時の丸雛は大慌てでした」
このまま、彼女を社長にしていていいのだろうか?
いくら月森が着いているとはいえ、これはあまりにも異常過ぎるーー
様々な声が上がり、一時期はミサコ様の後を継ぐ者を分家から探すにまで発展した。
だが、結局ミサコ様が社長の座から降ろされることはなかった。
「社長としてとても優秀で、且つ様々な企画などを編み出し業績を上げながら全国店舗を嫌な顔ひとつせず飛び回るその背中を、継げる者が現れなかったのです」
やっていることがあまりに凄すぎて、自分には継ぐことが出来ないと身を引く者ばかり……
反対の意を唱えていた丸雛の者たちもこれにはどうすることもできず、『使えるところまで使って頃合いが来たら降ろそう』という結論に至った。
「それからは、もうずっとミサコ様が社長として今日まで在籍しております」
狂っているのはイロハ様に対してだけ。後は何一つ問題のない完璧な方。
イロハ様へも暴力などをふるったことは無い。
母として叱ったりはしているが、とても仲のいい親子だった。
「イロハ様が小学生にあがるまでは、毎日共に過ごしておりました。しかし、カズマ様と出会いお隣の矢野元へ遊びや泊まりに行かれ始めてからは、ミサコ様もだんだん出張へ戻られることが多くなり、今では年に2、3回ほどしか帰っておりません」
「イロハくんのことをそのままにしていたのは、丸雛の為…か?」
「はい、その通りです」
丸雛の者たちは、もうミサコ様の事を諦めた。
狂っているのは子どもに関してのみ。仕事はしっかりとこなすので問題はないと。
私自身も、主人と丸雛の月森である為ミサコ様と丸雛のため誠心誠意尽くしてきた。
だが、いつかはこの皺寄せが襲いかかってくる日が来る……
イロハ様が周りとの違いに気づき、傷つき悩む時が。
ーーその時、私はどうすればいいのだろうか。
やはり…早めにミサコ様へしっかりと言い聞かせたほうが……
だが、今言ったらミサコ様は大きく混乱し自我を失うかもしれない……そうなれば社長としての務めができなくなる。
ミサコ様の代わりができる者など、現時点でいない。
そんな中、ミサコ様を失えば…丸雛は………
(っ、だめだ)
考えるだけで、鳥肌が立つ。
しかし、それだとイロハ様が……
『私は、どうすればいいの………?』
考えても考えても、堂々巡りが続いた。
そのまま、日々はどんどん過ぎ去っていって…
「今に……至ります………っ、」
ーー嗚呼、本当に。
私は、何て情けないのだろう。
私が月森としてもっとちゃんとしていれば…きっと……
だが、悔やんでも悔やんでも…もう後の祭りで、こうして皆様に迷惑をかけてしまっている。
(本当、恥晒しな月森)
「………っ!」
俯いた先
膝の上で白くなるほど握りしめている拳に、ポタリと雫が落ちた。
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