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sideアキ: 話を、聞いての……
(信じ…られない………)
要するに、イロハは男だけど家ではずっと女の子だったって事…?
それってなに? どういうわけ…?
丸雛の月森さんの判断で、丸雛側は社長であるイロハのお母さんを失わず救われただろうけど…ならイロハの気持ちは?
確かに、イロハはくるくるの柔らかい癖っ毛で、背だって低くてぱっと見女の子みたいだなって思うかもしれない。
でも体はちゃんと男の子で、心だってきっと男だったはず。
それ、なのに……
「周りと違う」って、「おれはおかしい」って自分で言ってたイロハの…心は?
ーーねぇ、イロハは丸雛の為に……犠牲になったの?
カタンッ
「すいません、遅くなりました」
「お邪魔しております」
「っ、ぁ……」
襖が開いて入ってきたのは、レイヤと月森先輩。
「こんにちは、龍ヶ崎さん。ようこそ」
「初めまして矢野元さん。龍ヶ崎レイヤです。よろしくお願いします」
軽く握手を交わすと、すぐにこちらへ来た。
「アキ」
「レ、イヤ…」
「ん。取り敢えず深呼吸しろ」
「ハル様もですよ。一旦目を閉じましょう」
「っ、せんぱい……」
隣に座ったその胸に、顔を押し付けられる。
(ぁ、レイヤの匂いだ…)
ガチガチに固まっていた体から力が抜けて、目の前の服を握りしめた。
ーー正直、心臓が冷えた。
俺と、重ねてしまった。
今でも思い出す…幼い頃の母さん。
俺の母さんは俺を怒っていたけど、イロハの母さんは笑ってたんだ。
イロハに、ただ笑いかけていた。自分がおかしい事にも気づかず、ずっとずっと……
俺たちの母さんは自覚があったけど、自覚も無くやられたら、されたほうはどんな気持ちなんだろう?
きっと、怒っても怒りきれないんじゃ……
「イロハは、今どうしてるんですか?」
ポツリとハルが聞く。
「今、ご自身の部屋に閉じ込められております……っ、」
「閉じ込め…ら、れて……」
イロハの母さんが是とするまで、部屋から出ることは出来ないらしい。
「そ、んな…っ、でも月森さんここまで来てるじゃないですか!ここに来るとき一緒にイロハも連れてーー」
「イロハ様に、拒否されてしまったのです」
「「………ぇ?」」
『カズマのところに?
んーん行かない。おれはここから出ないよ』
『イロハ様っ、ですが』
『スズちゃん、おれもう決めたんだ。
逃げないって言ったでしょ?』
『っ、』
『おれは、お母さんとちゃんと向き合いたいんだ。今まで逃げてた分、ちゃんと。
多分この機を逃したらおれまた逃げちゃうだろうからさ、ここにいるね?
大丈夫だよスズちゃん、心配しないで』
窓から伸びるイロハの手は、微かに震えていて
それなのに優しく…月森さんの頭を撫でたそうだ。
「私は、今までずっとイロハ様の心を顧みなかった。丸雛の為、ミサコ様の為、イロハ様を切り捨てた…っ、なのに、それなのに……っ!」
どうして…イロハ様はあぁも優しいの……?
「私はっ、わたし、は、っ、〜〜!!」
「スズ!」
声にならない声を上げ蹲る丸雛の月森さんを、矢野元の月森さんが支える。
「……うん。取り敢えず一時解散かな」
「そうね」
カズマのご両親が、静かに立ち上がった。
「後から来た2人は、襖の外から話を聞いていたかな?」
「気づいてらっしゃったんですね。入るタイミングが無かったもので、すいません」
「いいんだよ。
さて、この時間だと学校はもう終わっているね。皆さん今日は此処に泊まりなさい。まぁ、言わなくてもみんなイロハくんの事が解決しない限り戻りそうもないけどね」
「客室の準備をさせよう」と、一足早くカズマのお父さんが出て行った。
「ーーカズマ」
「…………」
「カズマ、私たちは貴方をその様に育てた覚えはありません。
〝これくらい〟で心を掻き乱して…お茶の世界ではどの様な事があっても心を落ち着かせるものです。
シャンと背筋を伸ばしなさい」
凛とした、カズマのお母さんの声。
先程から一言も言葉を発する事なく下を向いたままのカズマに、容赦なくかけられる。
「前を向きなさい。
強く、強くありなさい。カズマ」
厳しい言葉。
だが、その言葉はとても強くて、芯があって。
一向に顔を上げない息子を一瞥しながら、お母さんもまた…静かに部屋から出ていったーー
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