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よう。どうだ? お疲れ様です。なかなか熱が引きませんね…ですが先ほどよりは呼吸が安定してきました。 そうか…… 恐らく学園生活で疲れが溜まっていたのでしょう。 いくら私たちがフォローしているとはいえ、ハル様として過ごされていた事が周囲にバレないかという不安とストレスが、知らぬ間に蓄積されていたのでしょうね。 だろうな。まぁ…こればっかりはしょうがねぇな…… えぇ。時が経てばアキ様がいる事も当たり前になりますし、心苦しいですがこればっかりは時間が解決してくれるのを待つしかありません…… それより、薬は? あぁ、家で貰ってきた。丁度ハルの診察で医者が来てたからな。 そうですか、良かった。 後は貴方の部屋に連れて行くでしょう龍ヶ崎? そうする。このまま抱えてもいいか? えぇ、かけてる毛布もそのまま持って行ってください。 分かった。連絡助かった月森。 クスッ。いいえ、当然のことをしたまで。 あぁ、ゆっくりと抱いてくださいね? つい先ほど眠り着いたばかりでーー (だ…れ……?) すぐ近くで、声が2つ。 俺を起こさないよう、か静かに話しているのが聞こえる。 夢なのか現実なのかよく分からなくてうつらうつらしていると、何かにふわりと持ち上げられる感覚がした。 「ふぇ………?」 「あぁ、起こしたな」 薄く目を開けると、苦笑してるように微笑む黒髪。 (あれ、レイ……) 「眠っていてくださいアキ様、大丈夫です」 「ぁ………」 目蓋を包むように手が乗せられる。 手…冷たくて気持ちいぃ…… これは、先輩の手……? 真っ暗になった視界の中、もう一度すぅっと眠気がきて。 「ドアを開けましょう」という先輩の声を最後に、再び眠りについたーー 「ん……」 (あれ?ここ…って……) 意識が浮上して目を開けると、見慣れたベッドの上。 あれ? 確か俺…先輩のところに居たはずじゃ…… 「起きたか」 「レイ、ヤ……」 近くで本を読んでたレイヤが、もぞもぞ動き出した俺に気づいて近づいてくる。 「月森から連絡貰って、部屋迎え行って俺の部屋に連れてきたぞ」 「ぁ、そう…なんだ……」 そう言えば、何となく運ばれる感じの夢見たかも…?覚えてないや。 「体調はどうだ?」 「あたま、ぼうっとする…痛い……」 「そうか。待ってろ、飲み物持ってくる。ついでに体温計測っとけ」 「ぅん…」 ぼんやりする俺の頬を撫で体温計を脇に刺してくれ、そのまま冷蔵庫に向かって行った。 (なんか、やっぱテキパキしてるよな……) 今俺が寝てるのも氷枕だし、ちゃんとシートもおでこに貼ってあるし。 前に風邪引いたのが効いてる? まぁいいや、大人しくしとこう。 ピピピピッ 「終わったか」 丁度戻ってきたレイヤにスルッと抜かれ、代わりにペットボトルを持たされる。 「38度か…まだ高いな。ゆっくり水飲めよ」 「ん……」 「粥でいいか? なんか腹入れて薬飲め。丁度家から貰ってきてるから」 「ハル、は……?」 「あいつはまだ家だ。明日の夜に帰ってくるって言ってたな」 「そ、か……」 いつもなら、診察終わったらその日のうちに帰ってくるのに。 やっぱり、ハルにも気を使わせちゃったな…… 俺、なんで熱なんて出してるんだろう……? 「ーーアキ」 「ぁ……なに…?」 「…ったく、〝お前ら〟はほんっと……」 「??」 苦笑するレイヤに〝?〟を浮かべると、クツクツ笑って頭を撫でてくれる。 「あんま気を負いすぎんな。ハルは、今日の診察でも特に異常は無かったそうだぞ」 「そう…なんだ……」 「お袋も親父も今日までハルと一緒に過ごせるのを喜んでた。きっと今晩はご馳走が並ぶはずだ。それにお袋のあのテンションだと、多分月森も一緒に食卓につかされるだろうな」 「ふふっ、そうなのか…?」 「あぁ。だから大丈夫だ、アキ。 ーーハルは1人じゃない」 「ーーーーっ、」 びっくりしてレイヤの顔を見ると、その目は真っ直ぐ俺を見ていて。 「だから安心しろ。 安心して、自分のことに集中しろ」 「っ、レイ……」 ふわりと両手で両頬を包まれ、おでこを重ねられた。 「大丈夫。お前が不安がることは何もねぇよ。それともまだなにかあるか?」 「〜〜っ、うぅん、無い……っ、」 「ククッ、そうか」 ーーあぁ、もう。本当に。 どうしてこの人は、ここまで俺の心が読めるのだろう? 俺が何に不安なのか分かったの? 意味わかんない。あんなに外側人間だったくせに。 「〜〜っ、」 何でかわからないけど、涙が出てきて。 気づいたレイヤが、笑いながら舌で舐め取ってくれる。 「おし、ならもうちょっと寝てろ。また飯できたら起こすから」 「ん…ぁりがと……」 「ククッ。礼は治った時、身体でな」 「っ、はは、もう」 笑う俺にゆっくり布団を掛けてくれて、ポンポン頭を撫でてくれて。 (俺…アキになっても1人じゃないんだなぁ……) 前回は、ハルで風邪を引いてしまった。 その時もみんなとても心配してくれて。 それが俺自身になっても変わらないのが…凄く嬉しい。 俺、此処にいて…いいんだな…… 「レイヤ…」 「ん?」 「だいすき」 大好きで、大切で、愛してるで。 いろんな感情が一気に溢れてきて笑うと、乾いた唇にチュッと口付けが落ちてきた。 (ありがとレイヤ、ハルのことも…ありがと) 目を閉じるとすぅっとまた眠くなってきて そのまま、気怠さの中に身を委ねた。

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