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【side レイヤ】
(ん。下がったな)
夜
隣で眠るこいつの枕を変えてやって、ついでに熱を測る。
さっきよりも低いし微熱程度。
これなら、明日には平熱に戻りそうだ。
ボソッ
「ったく…無意識に溜めやがって」
クラスメイトや先生たちとのやり取りで、ドキリとする瞬間があるのだろう。
あぁ本当、時間を早く進められればいいのに。
丸雛や矢野元も一緒にいてはくれてるが、やはり精神的にかかる負荷は大きいか……
深くまで呼吸してる寝顔を、ゆっくり撫でてやる。
に、してもーー
「やっぱ、お前らはお前らだな」
月森から連絡を受け、親父から許可を貰い帰る時、ハルに「アキのことを頼む」と言われた。
『僕が行ってもし風邪が移っちゃったらそれこそ大変だから、1日ずらして帰るね。
ごめん、ね……』
ーーなぁ、その〝ごめんね〟は、誰に言ったんだ?
俺? それともアキ?
看病できなくてごめんねって? きつい時一緒にいれなくてごめんねって?
(はぁぁぁ……ほんっと)
「お前らは、双子だよ」
ハルもアキも、自分より相手のことばかり考えてやがる。
多分幼い頃からそうだったんだろう。
ハルは自分に移ったら大変と分かってるから、行きたくても行けなくて。
アキは1人で、きついのに耐えて……
結局、どっちも辛かったってやつか。
「堪んねぇな」
アキは、ハルがどんな想いでいるのかを分かってる。ハルも同様だ。
互いに自覚があるからこそ、辛い。
(まぁ、俺はアキを選ぶんだけどな……)
アキを知ってハルを知って、またアキを知って…俺はアキを選んだ。
ハルも、それを望んでいるようだった。
だから、これから何かがあった時は、悪いが俺は真っ先にアキの元へ駆けつける。
どんなにアキに「ハルをお願い」と言われようと、こいつを優先する筈だ。
それだけは……絶対に譲れねぇ。
ハルにも早くそういう奴ができれば良いんだけどな。
そうすればアキだって安心するだろうし、ハルも力を抜くことができるだろう。
今日だって、悲しそうに笑いながら見送るあいつを背に、俺はアキの元へ駆けつけた。
いくらお袋や親父がいたからって、きっとあいつの心の中は晴れない筈。
そんな時…その心を晴らしてくれるような存在がいたら、きっとハルもーー
「……これも、時間が解決してくれるってか?」
ま、俺がどうこう考えても所詮は巡り合わせってやつなんだろうな。
「ん………」
身じろぎながらこちらにすり寄ってくるアキに、笑って毛布をかけてやる。
何はともあれ、今日は一歩前進したか?
自分だけで我慢せずに、こいつから誰かに手を伸ばした。
月森も嬉しそうだったしな。
これからも、徐々に周りを頼って欲しいと思う。
「だが、もう一歩ってとこかな」
熱のある状態で部屋から出て、エレベーターに乗って月森の部屋まで行った。
別に月森じゃなくても櫻さんや丸雛たちの部屋の方が近い。それなのに、あいつは苦しい中わざわざ遠い部屋を選んだ。
もし途中で倒れたらどうするんだ?
または不審な生徒とすれ違ったら?
そんな状態だと部屋に引きずり込まれても、何も抵抗できない。
本当……危なっかしいんだよ、お前。
多分、月森に言われたことが真っ先に頭に浮かんだんだろうな。
「ったく……」
この野郎と眉間を押すと「んん〜」と唸られる。
教えることをそのまんま覚えてやがってよ。
でも、そういうところがいじらしいんだけどな。
ほんっと、育てがいがあるってか?
クククと笑いながら、暖かい体温を毛布の上から抱きしめた。
明日、朝起きたら熱が下がってるといい。
こいつの苦しそうな顔は、あまり見たくねぇ。
ってか、俺以外のことで苦しむんじゃねぇよ。
笑えるくらい真っ黒な独占欲。
でも、そんな俺を愛したお前もお前だ。
「さっさと良くなれ、アキ」
寝息を吐く唇に優しくキスを落とし、俺も目を瞑った。
fin.
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