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Taylor Richardson家 in飛行機の中
※本編P369[空港にて2]でアキたちと別れた後の話です。
【side 佐古】
ゴウゥ……ン………
ざわざわと多くの人が乗る機内の中。
そのざわめきを後ろに聞きながら、前方にあるファーストクラスでぼうっとしている。
(旅立っちまったな……)
まだ日本にはいるかもしれないが、自分はもう空の上。
今更帰るなんて言い出しても、もう戻ることは出来ない。
(ま、自分で決めたことだからいいけどな)
座席に深く沈んで、はぁぁ…と目を閉じた。
元々こうなる予定だった。
俺の所為で、お袋やあいつは日本に長く滞在している。本社はイギリスなのに、極力日本を拠点にして動いてくれていた。
俺がこの家に戻れば、足枷も無くなってあの人は自分や会社の為もっと自由にビジネスできる。
なのに、
(『ヒデト…本当にいいのか?』なんて聞かれてもなぁ)
あの厳しかった奴は、俺の事を心配していた。
折角できたいい友人たちと別れても本当にいいのかと。
『高校を卒業してからでも全然構わないよ』と。
あぁ……まったく
ポソッ
「舐めんなよ」
俺だって、ただ単にアキの為に戻って来たんじゃねぇ。ちゃんと自分で考えて、覚悟の上で此処に帰ってきた。
それにあいつだって『自分の後継は俺だけだ』って言いふらしてるらしいじゃねぇか。それなのにあぁいうこと言いやがる。
何なんだ〝親父〟ってやつは……見栄っ張りなのか?
部下たちに「早く後継の準備をしろ」とか、結構いろいろ口酸っぱく言われてんだろ?
なのにあの言葉かよ。はっ、なんだそりゃ。
会社とか関係なく、自分の子を自由にしてやりたかったのか?
(はぁぁ……ほんっと)
まぁ、いいけどな。
覚悟の上で戻ってきたし、今まで部下たちに後ろ指刺されてた処を俺がちゃんとやってやる。
俺の事を信じて、何を言われても決して俺以外の後継を作らなかったあいつの為、
ーーやりきって、みせる。
(ま、当分はあいつの後ろについて仕事覚えなきゃな。後は向こうの学校にも行って勉強して、それから……)
「おーにーいーさーまーー!!」
ドスッ!
「ぅぐっ」
思いっきり腹に何かが乗っかってきて、慌てて目を開ける。
「おにいさまっ、ねちゃったの? 起きて起きて!お話しよ!!」
「あぁ…? お前シートベルトは……」
「さっき音が鳴って、もう外していいわよっておかあさまが」
まじか、そんな指示あったか?
全然気づかなかった……
「なんのお話しする!? あ、わたしねっ、おにいさまのおともだちのことききたい!」
自分から聞いたくせに決まってんのかよ。
「ぁ、あ、ずるいっ、ぼくも…」
「あら、気をつけて行くのよ」
「ぅんっ」
お袋と乗ってた小さい体が、ふらふらこっちに来ようと歩いてくる ーーが、
グラッ
「ぁっ」
「っ!!」
機体が揺れて軽い体がゆらりと倒れそうになるのを、片手で妹を抱えながらもう片方の手で何とか受け止める。
「おにぃ……しゃ」
「ったく…気をつけろまじで」
危なかった。
間に合ってよかった、本当に。
「ぅ…ふぇぇ……っ」
(は?)
バッと腕の中を見ると、大きな目いっぱいに涙を溜めた弟。
「ごめ…な、しゃ……ぅわぁぁぁ!」
「なっ、お、おぃ」
幸い此処はエコノミーやビジネスのクラスじゃねぇから、ある程度のプライベートはある。
けど、流石に泣くのは迷惑になるんじゃ……
やべぇ、やべぇどうすりゃいいんだ。
お袋呼ぶか? いや、なんか今あいつと一緒にキャビンアテンダントと話してる。
は? 待て、どうやって対処すんだ?
兄妹なんて最近できたから扱い方がわかんねぇ。ましてや泣いてる奴の泣き止ませ方なんて…んなのわからなーー
ポカッ
「こらっ!こんなことで泣かないの!!」
「!?」
泣いてる弟の頭を軽く叩いて、はぁぁ…とワザとらしくため息を吐きながら妹が俺の膝の上で腕組みした。
「いい!? あなたは男の子よ。男の子はつよいんだから、かんたんに泣かないの!それに、おにいさまがたすけてくれたでしょ!?」
ぐいぐい引っ張って弟を同じように俺の膝の上に乗せ、持ってたハンカチで涙を拭っている。
え、何だこれ。
俺の膝の上で何が起こってんだ?
「ほらっ、ぜんぜんいたくないでしょ?」
「ぅ…っ、グスッ」
「もー…… おにいさま!」
「っ、な、なんだ」
「よしよししてあげて!」
「は………?」
よしよしってあれか?
頭撫でるやつか?
「ほら、はやくっ!」
「あ、あぁ…」
妹にこれ以上怒られる前に、クシャリと弟の頭を撫でた。
「おに……しゃ」
「怖かったな」
「っ、」
「ほら、もう大丈夫だから泣くな」
「〜〜っ、おにぃしゃま!」
「ぅおっ」
抱きついてきたのを受け止めて、ポンポン背中を叩いてやる。
そっか、こいつまだ3歳だっけな。
飛行機に乗るときもビビってずっとお袋に抱えられてたもんな。
生まれてまだ人生3年目、そりゃ怖いか。
なんだか一気に可愛く見えてしまって、必死にしがみつく小さな体をふわりと抱きしめた。
「あ!ずるいっ!!おにいさまわたしもー!」
「ククッ、はいはい」
おいでと腕を緩めると、すぐにピョコリと小さな頭が入ってきて。
クスクス笑いながら「せまいよ〜」と言う弟に安心しながら、暖かい塊を2つ
ーー大切に抱きしめた。
本当は、ちょっと寂しいかもな…なんて思ってたんだ。
でも、そんなの考える暇無さそうだな。
泣き疲れたのか、遊び疲れたのか、腕の中でスヤスヤ眠る妹たちを静かに見下ろす。
初日からこれだ。
こりゃきっと、一緒に住み始めたらもっと引っ張りだこにされる。
何をされるか……新しい家でかくれんぼか、鬼ごっこか…はたまたおままごとか……
(ま、いいけどな)
悪くないと思ってる自分も、大概だ。
チラリと視線を向けると、幸せそうにこちらを見ているお袋とあいつ。
ーーそういや、俺まだあいつのこと〝親父〟って呼んでねぇのか。
ポソッ
「これも追い追いってやつか」
今はまだ、こいつらのことで精一杯で。
キャビンアテンダントから貰った毛布をかけてやりながら抱え直して、まだまだ着かない遠い場所へ向けて
俺も、静かに目を閉じたーー
fin.
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