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「……は?」 「サンタさん来るとこまちがえてるよね? ハルのへやは向こうだよ?」 純粋な大きな目が、なんの躊躇もなく別の窓を指差した。 「おれとハルはにてるから、サンタさんもまちがっちゃったね!ふふふっ」 「なんで」 「? なぁに?」 「なんで、間違ったと思うんだ?」 サンタクロースは、子どもに平等に訪れる御伽噺の人物。だから間違うもクソもない。 それなのに、どうして…… 「だって、おれよりハルのほうがいい子だもん」 「っ、」 「あははサンタさんやっぱり見習いさんなんだねっ! 知ってる? サンタさんはいい子のとこにしか来ちゃいけないの。だから、おにいさんはハルのところにいくんだよ?」 「お前は…いい子じゃなかったのか……?」 「……うん。 だってね、いっつもおかあさんをこまらせちゃうんだもん」 「ーーっ、」 ギュゥッと、心が軋んだ。 「おれね、いつもおかあさんにおこられちゃうんだぁ…きっとおれがいけないことしてるからだと思う。 この前もハルといっしょに遊んでたらおこられちゃって……たぶんハルのこともっと考えて、遊ぶ時間もちょっとにしないとダメよっておこられたと思うんだ。でもね、その時は何でおこられちゃったのか分からなかったの。 おれっていけない子だねぇ」 (違う、それは) ハルのことを考えると、確かにそうなのかもしれない。 でも、本当の理由は別にあって。 お前は何も悪くなくて、もう俺がいる時間線ではそれは解決してて、だからーー 「あ、ハルはね!すごくすごーくいい子だよっ!! お熱はすぐ出ちゃうんだけどいっしょうけんめいがんばってるし、おれのあたまいっぱいなでてくれるの!」 「っ、そうか……」 「うんうん!だからね、ハルのところに行ってあげて? きっとすごーっくよろこぶと思うから!!」 目をキラキラさせながら精一杯笑うこいつは、精一杯に強がっていて。 (昔から、なのか) 自分より誰かのため。 いつだって自分のことは後回し。 今だって、サンタクロースが目の前にいんのに譲るのか? 本当は、喉から手が出るほど欲しいんだろ? (あーあ、ったく……) 「なぁ」 「?」 「俺は、見習いのサンタだ」 見習いなのかサンタなのかも知らねぇが、いい。 あるものは全部使う、それが俺だ。 「見習いだから、お前のそれがいい子なのか悪りぃ子なのかの判別がつかねぇ。 ーーだから、お前にもハルにもプレゼントやるよ」 「……ぇ」 「お前は、何が欲しい?」 「ーーっ、」 ヒクリと小さい喉が鳴って、綺麗な目がこれ以上ない程見開かれた。 「ほら、言えよ」 「……ぁ、ぇ…と………っ」 あんなに元気だったのに、どんどん尻すぼみになる声。 視線も下を向いてしまって…自信なさげに背中が丸まる。 あぁ、今のアキと同じだ。 今のあいつもこういう質問に全然慣れてなくて、欲しいものを聞かれる度困ったように視線を下に向けてしまう。 それにクスリと笑って、両手で小さい頬を包んだ。 「っ、ぁ」 「ゆっくりでいい。焦んな」 視線を合わせて語りかける。 と……こいつの口から震えるように声が漏れた。 「ほ…んとに、いい、の……?」 「あぁ、いい。言ってみろよ」 なぁ、本当のお前は何が欲しいんだ? その小さな心の中には、何が隠れてる? 微かに震える体の内側には、どんな本音があるんだ? 教えてほしい、俺の知らない日々のお前を……全部。 「ぁ…のねぇ……っ?」 ポツリと響く、小さな音。 「おれのこと、ぎゅってしてくれる人が…ふえたらいいなぁって思うの……」

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