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龍ヶ崎レイヤの日常

【side レイヤ】 「ーーさて、行くか」 放課後 授業を受けきってから、一人足早に生徒会室へ向かう。 もうすぐ、副会長たちが卒業する。 それに伴い新しいメンバーを選定しなければならず、引き継ぎ等の準備もあって、行事ほどではないが生徒会自体連日ばたついていた。 (この前放課後にハルたちと残ったから、ある程度はできてんだがな) それぞれの役職の引き継ぎファイルをパラパラとめくり、最終確認。 生徒会長の俺はいいとして、その他の役職はハルも合わせ大きく人が変わる。 その人員も、ある程度はもう目星をつけてる。 後はそいつらが首を縦に振ればいいが…… ま、そこは大丈夫だろう。 ちゃんと伏線は言ってあるからな。 あいつらもそれなりに頑張ってんのを先生方からも聞いてる。 新しく入るメンバーを、今度はどう育てていってやろうか……あぁ、今から楽しみが止まらない。 「ーーん。完璧、だな」 あんなにあったミス・期限を守れない書類・大量の乱雑な処理。 そんな仕事をしてた副会長たちが、今はこんなにも綺麗なファイルを作り上げれている。 始めが懐かしい。 本っ当出会った当初はクソみたいな奴らだったんだがな…いやあの頃の俺も言えた身じゃねぇが。 だが、体育大会前のあの日があったからこそ、その後の生徒会の雰囲気は良くなった。 風紀や親衛隊も安心したような様子だったし、何よりチームワークの大切さを初めて理解した。 「こいつらなら、もう大丈夫だな」 業務をする上でのコツやノウハウは、嫌でも叩き込んだつもりだ。 これから先大学生になって社会へ出ても、きっと大丈夫だろう。 だって、この俺がマネジメントしたんだからよ。 Prrrrrrrrr…… 「はい。 あぁ行く、待ってろ」 最終確認を終えた頃ちょうど鳴った電話に、バタンと生徒会室の扉を閉めた。 「レイヤ様、本日はこのまま本社へと向かいます」 「分かった。資料は?」 「こちらに」 迎えに来た黒塗りの龍ヶ崎の車へ乗って、使用人から本日出席する会議の資料を読み込む。 去年の夏休み終わりから少しずつ俺を会議へ参加させはじめた親父。 前は週に1度ほどだったが、最近は週に2・3度の頻度になった。 『こういうのは早めがいいと思ってね!お前ももう17、来年は18…もう立派な大人だ。大学には学生気分じゃなく大人としての息抜きで学びにいくような心持ちで行きなさい。その為にも、早めに社会へ出そうと思ってね』 親父の事は食えないタヌキだと思ってるし、今でも腹の底は見えない。 だが……正直言って、俺の1番尊敬する人だ。 この先なにがあるか分からない時代。 変化が激しく、今ある当たり前はいつ崩れるのかも不確定。 そんな中だからこそ、きっと親父は俺に他の奴らよりも早く社会を経験させとくんだろう。 俺は、このままいけば社長になる。 社長の下には大量の社員、本社以外にも支社や店舗一店一店…アルバイトも入れると数えきれない人材を抱えている。 その人たちを路頭に迷わせないように…数ある企業の中から龍ヶ崎を選び働いてくれている事を後悔させないように、俺は広い社会や沢山の人と繋がっておく必要がある筈だ。 必要最低限だけ言って後は茶化して終わる親父だが、恐らくきっとそういうことを考えている……はず。 (はっ、俺も大分読めるようになってきたな) アキに出会って心を読むという事を学んだが、確かにこれは生きていく上で必要なスキルだった。 親父の出は分家、しかも次男坊。 それなのに月森を付けここまで上り詰めたのは純粋に凄い。 そんな親父に俺も一歩でも近づけるよう、これからも使えるもんは全て使って学べるものはめいいっぱい学んでいく。 (見てろよ親父……) いつかその尻尾を掴んで、追い抜いてやるからな。 「それでは、会議を始めます。本日もご出席ありがとうございます、絹川(キヌカワ)様・的羽(マトバ)様」 「いいや月森、いつもの事じゃないか」 「レイヤくんもお疲れ様、学園からそのまま来たんだね」 「制服姿ですいませんが……」 「ははっ、その学園の制服なら問題ないだろう。名門じゃないか」 絹川氏と的羽氏は、龍ヶ崎と仲のいい企業の方々。 当たり前だが、社長の息子といえど学生の身分である俺を会議に入れるのを嫌がる企業もある。そんな中俺の同席を認めてくれる事は、非常に有難い。 (初めは親父が出れる会議を見つけてくれてたんだが、今じゃノータッチだな) きっと、自分で自分を売り込んでどんどん出られる会議数を増やせという事。 スパルタだな…と思うが、これくらいが丁度いい。 人脈とは、こうやって広げていくものなんだと思う。 「それでは、本日の内容ですがーー」 既に本社で準備をしていた月森が、円滑に会議を進めていく。 その中で龍ヶ崎の社員と絹川氏・的羽氏が意見を交わし合っているのを、時々質問を挟ませてもらいながら懸命に頭へ入れた。 「お疲れ様でした、レイヤ様」 「あぁ、次はまた明後日だな」 「はい。また時間になりましたら迎えに上がります」 「わかった」 「では」 バタンと黒塗りの扉を閉め、送ってくれた月森の運転する車を見送る。 次の会議はまた明後日金曜日。 しかも、金曜の会議は2つ入っていたな。 (はぁぁ……この時間じゃ、もうアキも寝てるか) あの後絹川氏と的羽氏に夕食へ誘われ、親父の許可を貰い一緒に行ってきた。 月森を付けてくれたからあまり心配せずに話をすることができた…が、 (まだまだ甘ちゃんだな、俺も) 当たり前だが、年齢の差を…経験の差を大きく感じる。 さっきも2人にとって息子のように話をされてしまった。まぁしょうがねぇが…… 早く、多くの経験を積んでもっと大きくなりたい。 「はぁぁ……ま、一歩一歩ってところだな」 今はまだ、この学生の身分を大いに楽しませてもらおうと思う。 アキと出会ってから既に中身の濃い日常を生きている。 これからも、もっともっといろんなことが起こるんだろう。 そんな日常へ引き継ぎ精一杯食らいつきながら生きていこうと思いつつ、明日は朝から会いに行って一緒に登校するかなと考えながら ぐぐぐっと伸びをして、寮への道を歩いたーー fin.

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