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「痛って!!」
ハッと顔を上げると、男たちの後ろに黒い影。
「は、離せってちょ……うわっ!」
そのまま後ろにドサッと床に叩きつけられ、腕を抑えながら蹲った。
「何をしてんだって聞いてんだ。日本語通じねぇのか?」
「っ、ぁ……」
氷点下…赤ではなく青い炎みたいに静か。でも確実に怒りを露わにしてる顔。
俺の手首を掴んでる手を叩き落とし、肩を押さえつけてた手も無理やり退けて、俺たちの間に割り入ってきた。
(レイヤ、だ)
掴まれてた手首を握り締めながら、目の前の背中にポスンとおでこをぶつける。
後ろにまわってきた手が「大丈夫だ」というように体を撫でてくれ、固まってた喉がヒクリと鳴った。
「あ、あーそんな怒んなよ!な? ちょっとくらいいーじゃん」
「そうだって。別に取るつもりはねぇしよ、少しくらい貸してくれたってさ?」
「男ならわかんだろ」
「あ? なにを言ってる」
ブワリと、 纏う空気がまた一段と黒くなる。
「男ならだと……? そんなもん分かるわけねぇだろ。
大体、日本人のクセして日本語も通じねぇお前らと俺たちを一緒にすんじゃねぇ。気分が悪い」
「………あぁ?」
「っ、」
怒りを露わにした声。
思わず、ビクリと肩が震えた。
「さっさと床の奴回収して消えろ。目障りだ」
「言ってくれんじゃねぇか!顔がいいだけでなんでもできる気になってんなよ!?」
「あ? 言っとくが俺はーー」
レイヤに殴りかかってきた男の体が、グルンと傾く。
「なんでも出来る、天才なんだよ!」
「ぐあ!!」
ドタンッ!と綺麗に背中から投げ落とされた。
「ハッ、こんなもんか。生ぬりぃ」
「ひぃっ」
パタパタパタ……
「お客様!大丈夫ですか!?」
揉めている音で誰か呼んでくれたのか、係員の人たちがトイレに駆け込んできた。
そして俺たちと男たちを見て状況を把握し、あと1人残っていた男を押さえつけ始める。
(ぁ………)
良かった…終わっ、た……
溜め込んでた空気が、少しずつ口から出てきだして。
浅い呼吸を続ける俺の背中を撫でながら、レイヤが事の説明をしてくれた。
「はぁ………」
あれから、強張ったままの俺を見て「少し気分転換するか」と外にある中庭みたいな場所へ連れて来てくれた。
「ほら、飲め」
「ありがと」
渡されたミネラルウォーターでほぉっと息を吐きながら、空いてるベンチに座る。
「落ち着いたか?」
「うん」
「気分は?」
「平気。もう大丈夫」
「そうか」
グッと肩を抱かれて、レイヤにもたれかかった。
「さっきの、ありがとう」
「いや、すぐ行けなくて悪りぃ。お前吐くだろうから水買ってた」
「いいよ、やばい時に来てくれたし本当…助かった……
ってか、レイヤってなんか格闘習ってたの?」
「あぁ、最初は護身術程度にな。でもそれ以上知ってても損はねぇ世界かと思って、一応一通り教えてもらった」
「えぇ……」
まじかよ…本当に何でもできんじゃんこいつ。
あそこで自分のこと「天才」って言い切っただけあるな……
「っというか」
「? なに?」
「お前さ、多分酔ったんだな、映画館で」
「……へ?」
酔った? 俺が映画館で??
「稀にあるらしい。まぁお前の場合は初めてだったし、慣れてねぇのがありそうだが」
〝酔う〟
今更だけど、俺酔ったことないかも。
乗り物だって酔うほど長く乗ってないし、そういう系で気持ち悪くなったことは無い。
そっか……これが酔うってことなのか。
「あとはあれだ、大きい音。お前雷苦手なのもあるし、多分それも影響してるはずだ」
「あ……」
確かに、途中から耳がグワングワンしてぼうっとしてしまった。
「苦手なものがまたひとつ見つかったな、ククッ」
前々から怖かった雷と、新しく追加された映画館。
俺、苦手なものまだあったんだな。
でも……
「映画館は、苦手なままで良いかも」
「? なんで」
「だって……レイヤと2人きりじゃないから」
初めての映画館は、それは楽しかった。
あんなに大きなスクリーンとど迫力の音響で新作の物を観るのは、凄く非日常。
「でも、俺は部屋のテレビの方がいいな」
カーテンを閉めて食べ物を持ち寄って、部屋を暗くして準備して。
一緒にソファーに座って観る物は、一度観たのでもそうじゃないのでも全部面白い。
「だから、映画館は別に克服しなくてもいいや」
ちゃんとした服を着て知らない人みんなで一緒に観るよりも、部屋着でゆっくり貴方とだけ観ていたい。
折角連れてきてもらったのに、結局出てきた結論はこれ。
雷はいつか乗り越えたいけど、映画館はこのままで。
「ーーっ、ハハッ、そうか。 ………アキ」
「ん? なにレイy……んっ!?」
上を向くと、直ぐに口を塞がれた。
「ぅん…ん、んん……っ」
ニュルリと舌も入ってきて、俺のと絡み合いクチュクチュ音を立てる。
待っ、待ってここ外、外!!
なにやってんの!?!?
「んっ、ぷは…はぁ……っ、は……」
「好きだ、アキ」
「っ、お…俺も……好き、だ……っ」
「クククッ、」
抱きしめられ、頭のてっぺんにキスを落とされる。
何回されてもまったく慣れない行為にぶわっと顔が熱くなって、目の前の服に顔を押し付けた。
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