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櫻は、元々没落寸前の家だった。
事業に失敗し多額の借金が生まれ、社員を解雇しても銀行に金を借りてもその返済が間に合わない。
父も母も死にものぐるいで日々を生きていて、私も小学生ながら大変なことになってるのを感じていた。
そんな時、1人の男が私に目をつけた。
『あなた方の息子と私を婚約者にして頂きたい。
そうすれば、櫻の会社を立て直すだけの金を援助しましょう』
日本でも名のある会社の、上のポストの男。
家柄も良く、それなりにこの世界でも聞く名字。
そんな人と婚約者になれるのは決して悪くは無い話で。
『だが、会社すらわからない息子が20も歳が離れている貴方と結婚の約束など…あんまりすぎる』と顔を白くする両親に、自ら『いいよ』と言った。
『いいよ。この人の〝こんやくしゃ〟になるよ?
だから、もうお母さんもお父さんも休んで』
日に日にやつれていく両親が…怖くて、消えてしまうんじゃないかって……
それなのに何もできない自分が嫌で嫌で仕方なくて。
やっと自分にも出来ることが見つかったと、嬉しかった。
『この子だけは何があっても守りたい』と必死になってくれた大好きな両親を……自分も守りたい。
私の承諾を聞いた両親は泣き崩れ、男は『いい子だね』と優しい笑みを浮かべていた。
そうして、私は小6にして20も年上の婚約者を作った。
約束通り男からの資金援助があり、借金は返済
櫻の企業は解雇した社員達を少しずつ呼び戻し再び動き始めた。
ーーだが、私は
わたし、はーーーー
「…ーー? ……ーら、おーい櫻? 櫻??」
「っ! ぁ、はい、なんでしょうか?」
「いや、ぼーっとしてたぞ。
お前時々あるよな…大丈夫か?」
「問題ありません、お構いなく。
それより、私にはもう婚約者がいるのでいい加減に諦めてください。何度言えば分かるんですか?」
「チッ、うっせぇなぁ。
いいか? 俺は諦めねぇ、ぜーってぇ絶対ぇ諦めない」
「はぁぁ……まったく、何でそんなn」
「だって、お前全然幸せそうじゃねぇから」
「ーーぇ」
だんだん寄ってくる梅谷に無意識に下がっていた足が、トンッと机で止まった。
「別に、俺だって婚約者がいるのに横取りなんかしねぇ。もっと早く出会っときゃ良かったと後悔はするが、そんなもん後の祭りだしそれだけだ。
だが、お前のは違う。出会った頃からもうずっとその顔だ」
グイッと顎を掴まれ、無理やり目を合わせられる。
「出会って今年で6年。
ーーなぁ。てめぇその能面みたいに笑う顔の下に、一体何隠してる?」
「っ、な………」
「いい加減教えろよ。他の奴は騙せても俺は無理だぜ?お前しか目で追ってねぇからな。
婚約者ってのは本来幸せにあるもんだ。それなのに何でお前はそんなに面を被る?
その面の下は……どんな顔してんだ?」
「っ、」
無意識に、最近もっとも痛かった横腹をさする。
あぁ本当、どうしてこの男はそう私の中に入ってくるんだ?
ちゃんと予防線を張っているのに、どうしてそれを超えてくる?
なんで、どうして
ーーコンコンッ
ビクッ
「っ、」
『おーい!誰かいる?入ってもいいー?』
「ぁっ、はい!とうぞ」
扉が開き他の役員達が入ってきて、グイッと目の前の影を押し退ける。
「わー梅谷くんと櫻くんだ、やっぱり2人もだったか!」
「こんにちは、これから1年よろしくお願いしますね」
「こちらこそー!」
一気に騒がしくなった室内。
それに安心しながら、後ろからジトリと睨んでくる視線を無視した。
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