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sideハル: これが僕のルーティーン 1
「じゃあ行ってくるから」
「はーい、気をつけて。また明日な!」
「うんっ。レイヤと仲良くね、アキ」
「な、そんな毎回喧嘩しないから大丈夫だよっ」
「ほんと〜? この前も書類の件で言い合ってたじゃん」
「だってあれは、部屋まで持ち帰って生徒会の仕事するから!それならもっと俺に仕事よこせばいいのにって……」
「あははっ。確かにそうかもだけど、なんか理由があったんじゃない? 今日もしてたら訳聞いてみなよ」
「………そう、する」
「いい子いい子。それじゃあね」
ぐぬぬ…となりながらも玄関まで見送ってくれる片割れの頭を撫でてから、部屋を出ていく。
1月…3学期から、アキはアキとしてこの学園に通いはじめた。
それから少し経ってイロハの件が起きて
それが無事片付いてから新生徒会の話があって
そして引き継ぎが無事終わり、先輩方が卒業していって 今。
現在、僕らは高校2年生。
生徒会に入っているため、寮の部屋は1番上の7階へと移動した。
それぞれ1人部屋だけど、僕らだけ2人部屋。
今年から正式に役職へ追加された「秘書」の部屋が無いのと、僕が1人部屋だと何かあったときすぐ対処できないから。
元々アキは僕と一緒の部屋がいいと言ってて、今回それが叶った感じだ。
ーーそれが本心なのかは、わからないけど。
(いや、本心でも無意識に僕を選択したんだろうな)
本当は、レイヤと同じ部屋になりたかったんじゃないかと思う。
幼いころからの刷り込みというか、クセというか……
アキの中の優先順位は、多分まだ僕のほうが上だ。
それが酷く 腹立たしいというかーー
「こんにちはハル様、どうぞ」
「こんにちは、よろしくお願いします」
学園の門を出た先
待っていた黒塗りの車に乗り込む。
今日は、2週間に1度の検診の日。
アキがハルとして通ってた時していたこれを、僕は今も変わらず続けている。
いきなり辞めると周りに何かを勘ぐられたり、言い訳が難しくなるから。
それに僕の体のためには寧ろいいことだから、アキのときみたくフェイクで使うんじゃなくてちゃんと検診してもらおうということになって。
小鳥遊にいた時も大体同じくらいの期間で検診をしてたし僕自体は慣れたもの。部屋を使わせてくれる龍ヶ崎の皆さんにも、『よろしくお願いします』と頭を下げた。
(これに関しては本当にありがたいよね。
体もそうだけど、アキについてが)
検診中、アキはレイヤの部屋に行く。
2人は恋人同士で婚約者同士。しかもアキがアキとして付き合いはじめてからまだ半年も経ってないし、イチャつきたい盛りだと思う。
そんな中僕と部屋が一緒になったから、せめてアキが1人になる時間を作らなきゃって……
(イロハたちみたく半同棲になればいいのになぁ)
互いに部屋が違うのに、毎回毎回同じ部屋へ帰る2人。
アキとレイヤもあぁなればいいんだけど……
ま、僕がいるから無理か。
ポツリ
「あーぁ、ほんと邪魔」
〝龍ヶ崎レイヤの本当の婚約者は、小鳥遊ハルでなく小鳥遊アキ〟
これを互いの家が発表して、多少ザワつきはあったものの月森先輩の手回しで学園内は落ち着いて。
そんな中、僕はまだふたりを邪魔している。
笑うしない。
いっそこの検診を無くしてしまえば、僕は病気で死んで早々にこの世から姿を消すことができるのだろうか。
でもそれだと僕へ関わったみんなに後悔を残す。『あのとき検診を無くしてしまったからだ』って。
だから、せめて高校卒業まで……それまでは、ちゃんと生きる。
それからはアキは本格的に龍ヶ崎へ入るだろうし、ようやくレイヤにアキをあげられるから僕は1人になるわけで。
(だからそれまでは我慢、かな)
「ハル様、着きました」
「はい、ありがとうございます」
龍ヶ崎の屋敷前。
運転手にお礼を言って車を降り、玄関のドアを開ける。
既に待っていたメイドへ荷物を預けながら、いつもの部屋へ案内されて……
(いや、我慢って思ったけど
〝こっち〟をどうにかしてくれたら、もっと我慢しやすいかも……)
そもそもおっくうなんだよな、検診。
アキを1人にする為だしみんなに心配かけない為だしで仕方ないんだけどさ、ほんと
〝この人〟…だけはーー
コンコンッ
「失礼します」
部屋の前でメイドと別れ、一声かけてからドアを開ける。
まだ日が昇る明るい時間帯。
薄いカーテンレースから光が入り込む室内は、つい微睡んでしまうようなゆったりとした雰囲気が流れている。
そんな、場所で
「こんにちはハルちゃん。今日もちゃんと来たね」
椅子に座りながら、柔らかく微笑む 人。
「………こんにちは、ヨウダイ先生」
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