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[中編(ハル編)]プロローグ
幼い頃から、とにかく苦しかった。
体もそうだけど 心が。
ひとりじゃなんにもできなくて、誰かの助けがないといけなくて
「みんなそうだろ」と言われたらそれまでだけど、僕の場合はもっとそうだったから
だから苦しくて、痛かった。
でも、最近それが少し 薄れた。
レイヤがアキを見つけてくれてから、幸せそうに笑うアキを見ることが多くなってきて
それにほんのちよっと……救われて。
僕のしてきたことは、変わらない。
両親の愛を独り占めし、母さんが冷たくあたるのを止められず、ズルズルとそのまま高校生になって。
それなのに、なんてことない顔でここにいる。
アキが用意してくれた場所で、アキが着ていた制服を着て、アキがつくった友だちと笑って……
ーー僕はなんて 嫌な奴なんだろうと、思う。
初めからこの物語に僕がいなければ、全てうまくいっていた。
アキは幼い頃から辛い思いをせず済んだし、アキのままでレイヤとも出会えていた。
今 わざわざもう一度関係を築かなくても、この学園にアキとして最初から通うことができていた。
僕がいるから、全てが狂う。
僕が いるからーー
こういうのを考えると必ず現れる、どす黒いもの。
いっそ体の中から僕を飲み込んでくれればいいのにと思う。
そうすれば、もう誰にも迷惑かけずに済む。
でも、月森先輩やレイヤ・アキにはこれを飼ってることがバレてる。
これが見え隠れするたびに手を握られて、「大丈夫か」と問われ、心配をもらって……
(みんな優しすぎるんだよ)
ほっとけばいいのに。
こんなの、助ける価値もないでしょ。
大体 僕の役目はアキが隣から羽ばたいていった瞬間に、終わったんだ。
羽ばたかせるために、ここまでやってきた。
だから、もうーー
あぁ、考えれば考えるほどズブズブの思考にハマっていく。
落ちていく。黒に。
でも、これでいい。
アキが幸せになって、僕らのことを助けてくれたイロハも幸せになって
ほかに何を望むの?
(僕は)
僕は このまま
ーーーー〝消えていったほう〟が、いいと 思う。
-ハルとアキ-
中編(ハル編)
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