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sideハル: 海 1

「……ん…」 あれ? 天井が違う、ここ何処だっけ。 確か朝まで学校にいて、それからーー (そうだ、別荘) ゆっくり体を起こすと、真っ暗。 目が慣れてから部屋の時計を見ると、もう夜だった。 結構寝てたんだ。 思ったより疲れてたっぽい。 でも、もう熱も下がって体も軽い。 「ん……?」 立とうとして手をついた先、カサリと音がする。 暗がりの中拾い上げると、メモ用紙。 〝起こしてね、ご飯あるから〟 (? 起こしてねって……) ーーあぁ、なるほど。 向こう側の壁に、もうひとつのベッド。 そこに、スヤスヤ寝息を立てるヨウダイ先生がいた。 僕、先生と相部屋なのか。 ということはアキはレイヤと一緒で、イロハはカズマと一緒、月森先輩が1人部屋かな? びっくりした、みんな1人部屋かと思った。 でも確かにせっかくの旅行で1人部屋は寂しいよね。 月森先輩は1人のほうがいいかもだけど…… (ぁ……) 静かな部屋に聞こえる、ザザ…ンという波の音。 窓へ近づくと、太陽ではなく月に照らされた、また違った景色の海が広がっていた。 ……少しくらい、いいかな。 ご飯よりもなによりも、そっちのほうが気になってしまって スリッパを履いて、忍び足でゆっくり部屋のドアを開けた。 「わぁ……」 月の光が明るい夜。 広い空の先、雲が遠くに見えて上を向きながら浜辺を歩く。 みんなはもう寝てるだろう、波の音だけの静かな空間。 誰もいない、真っ暗な世界。 「よいしょ」 スリッパを脱いで、裸足で砂に触れてみる。 (わ、意外と熱い) 日中太陽に照らされていたからか、まだ熱を持っていて足の裏がじんわりする。 でもそれさえ楽しくて、そのまま また歩きだす。 砂の上、初めて歩いた。 感触が気持ちい、ザクザクするし足が沈んでく。 もし明るかったら自分の足跡が見えたのかな。 明るい時間帯と違い、過ごしやすい真夜中。 なんだか1人だけ悪いことをしてるみたいで、笑ってしまう。 でも同時に、僕はやっぱりみんなとは一緒じゃないんだなと思えて…… 「……ぁ」 足を止めた先に、打ち寄せる水。 この先は海だ。日中見たのとは違う、暗い海。 地平線が見えてたのに、今は全然だ。 (青の色は違ったのに、空の黒と海の黒は一緒なんだな) すべてを飲み込むような、大きな大きな黒。 どこまでも広がってて、ここからが境界線なんだよと波が教えてくれてる。 「………」 一歩、足を進めてみる……と 「わ、ぁ」 パシャンと波が足にぶつかって、水飛沫が飛んだ。 途端に漂う潮の匂いで、これが海水なんだと改めて実感する。 思ったより冷たい。 砂は温かかったのにな、やっぱ夜になると水は温度が下がるのか。 「っ、」 ブルリと足元から悪寒が来て、思わず両手で体を包んだ。 しまった、病み上がりだった。 また体を冷やしたら、熱がぶり返すかな。 (……あぁ、面倒だな。そういうの) どうして僕はいつもいつも自分の体のこと考えないといけないんだろう。 なんでいつも、苦しいの? みんなは自分の体なんてかえりみない。 鼻が詰まってから呼吸をしてることに気づく。 耳をイヤホンで塞いでから、今までいろんな音が聞こえていたことに気づく。 それが当たり前なんだ。体が勝手についてくるのは当たり前。 でも、僕にはそれが当たり前じゃない。 鼻が詰まる前から自分の呼吸を意識してる。 耳をイヤホンで塞ぐ前から、周りのいろんな音を意識して聞いてる。 いつもいつもいつも 毎日、ずっと。 僕は、こうなんだ。 「ははっ、ほんと 疲れる……」 この毎日は、これからも続くんだろうか。 それはどれくらい? もうずっと…? ーー嗚呼、本当 笑えない。 (もし、このまま僕が消えたら どうなるんだろう) この海に吸い込まれていったら、アキは レイヤは、イロハやカズマは、先輩は 一体 なにを……思うだろうか。 「なぁんて」 そういうのは、みんなと離れる高校卒業まで無理だけど。 (…そろそろ、帰るか) でも、もう少しいたいな。 初めて見る海を思ったより気に入った自分がいて、波の音をずっと聞いてきたいと思う。 あとは、段々水の温度に足が慣れてきて…気持ちいというかーー 「ハールちゃん。なにしてるの」

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