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sideハル: 自分の心、とは 1

「気持ちいねー!どんどん進む!!」 「だな!いい天気だし海もキラキラだ…!」 「だいぶ沖まで出たな、海風が少し強い。 ハルは寒くないか? ……ハル?」 「ぁ、ごめっ、平気だよカズマ。丁度いいくらい」 ここへ来て2週間。 夏休み終了まで残り1週間となってきた今日、みんなで龍ヶ崎の所有する小型クルーズ船に乗せてもらった。 みんなはもう2〜3回目くらい。僕は今日が初めてだ。 月森先輩はお盆の行事で実家に帰ってて、また最終日の少し前くらいに戻ってくるらしい。 だから、今は先輩を除くみんなと運転手で遊びに出ている。 (船、乗るの初めてだな……) 船酔いは相当辛いらしいから、念のため酔い止めを飲んできた。おかげで体調はすっきり快適。 水飛沫を上げどんどん進んでいく船は早くて、もう別荘が豆粒みたいに小さい。 隣のカズマと他愛無い話をしながら、遠くを眺めるようにして座った。 多分、イロハとカズマは僕とアキがぎこちない空気を出してることに気付いてる。 だからこうして4人で話す時も僕らの間にいてくれる。 気を遣わせてるのを悪いと思いながらも、全然答えが出ない胸の内にはぁぁ…とため息が漏れた。 『ハルちゃんの心の中には、もうひとつ別の感情がある。 この黒いのの裏側に、同じくらい大きなものが』 この前先生に言われたことが、ずっと頭で響いてる。 そんな感情、本当にあるのだろうか。 今まで気づかなかっただけで、別の想いを…罪悪感とは違う何かを、持っていたのだろうか。 (僕は、〝寂しい〟と思った) アキが別人に見えて〝寂しい〟と感じた。 それは黒い感情ではない別のもの。 なら、寂しいというのが新しい感情なのだろうか? (……いや、違う気が…する) それじゃないと思う。もっと大きなもの。 寂しさはあるけどそれ以上の〝何か〟が、心に巣作っている。 それは一体…なんなのか…… 「みんなー、この辺でちょっと船止めるから。 運良かったらイルカが見えるみたいだよ」 「え、イルカ!?」 「すごい、水族館でしか見たことないのに……野生ってことだよね!? 見つけたい!!」 興奮しだすアキとイロハにニコリと笑ながら、レイヤと運転手の元に帰る先生。 あの日以来、先生とは別の部屋で寝泊まりしている。 幸い月森先輩の部屋は僕のとこと同じ2人用で、使ってない部屋をそのまま使わせてもらったかたち。先輩がお盆で帰ってる間も、ひとりで使わせてもらってる。 ただ、僕の体調面から部屋の合鍵を先生に渡すことになったけど…… 今のところ、その合鍵で入ってこられたことはない。 先生と僕の間も、空いた。 あんなにベッタリだったのに全然近付かなくなったし、話しかけてもこない。 医者としての会話はあるけど、それ以外のものは全然。 ひたすらペチャクチャうるさかったのに、ちょっと不思議な気分。 好き好きタイムもなくなった。触れ合うこともないし、目を合わせることもない。 ……なんか、変な感じだ。 (変? これが普通だったじゃんか。これまでが変だったんだよ) 多分、あの人の手があまりに気持ちよかったせい。 だから変とか思うんだ。 あんなに…隣にいたのに…… (って、いや違う違う! 今は先生じゃなくてアキのことだろ) ぶんぶん頭を振って、はしゃぐイロハたちとは逆側の海を眺めにいく。 アキと、気まずい。 アキが別人に見えて、寂しい。 ーーアキが別人に見えて寂しいから、気まずいんだ。 普通喜ぶとこなんじゃない? だって僕は早くアキをレイヤにあげたいと思ってて、アキはこの旅行中ずっとレイヤといられてる。 恋人同士の2人を一緒にすることができて、喜ぶべき場面のはず。 …それなのに、実際の僕は寂しくて気まずいと感じてしまってる。 どうして? 罪悪感だらけの黒い感情なら、喜ぶところだろう? なのになんでこんな気持ちになる。 喜ぶところで寂しいと思うなんて、矛盾してる。 僕はなにを…思ってるんだ…… ーーというか、その感情に気づくことって そんなに大事? 「……って、ぁ」 ぼぉ…っと眺めていた目線の遠く。 輝く海の中に、バシャリと跳ねる何かがいる。 嘘、もしかしてあれイルカ? 水族館も行ったことないしテレビとかでしか見たことないけど、もうしそうだったらすごい…よね? (先生もさっき「運良かったら」って言ってたし、きっとレアなことなんじゃ……!) 「ねぇみんな、こっちに……っ!?」 勢いよく振り返った瞬間、足元に溜まっていた海水に足を取られた。 ガクリと体勢が崩れて、思わず手すりにもたれかかったけど波で船が揺れ手が滑ってしまって そのまま 「っ、ハル!!」 真っ青になったアキが駆け寄ってくる前に、バシャンと勢いよく海へ落ちたーー

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