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sideハル: ビターな時間 1
「本当にここでするの? 僕の家いかない? 絶対そっちのほうがいいよ」
「嫌です」
少し明かりを弱め、温度を上げてもらった先生の診察室。
その一角にあるベッドへ座る僕に、焦ったような声がかかる。
自宅よりもここがいい。
さっきはあぁ言ったけど、先生に向けられる視線を全て排除するなんて無理だ。先生の手に触られるのは僕だけがいいなんてのも。
まぁ本気で願えば叶えてくれるだろうけど、この人のおかげで助かる命がたくさんある。それなら、僕はこの仕事を己の私利私欲のために辞めさせるなんてことはできない。向こうから「辞めるよ」と言ってきても、絶対止める。
だから、それならばここで。
この完全仕事場な場所でのほうが、業務中も僕を思い出すだろうし先生を独占できる。
学生と社会人だしこっちは全寮制だしで離れてる時間が多いから、このくらいのことはしておきたい。
折れない僕に「はぁぁ…」と溜め息を吐きながら先生の手が帽子を外し、ローブをたくし上げて首から引っこ抜く。
「う、わ……これは予想以上…足エッロ」
「別に旅行中も短パン履いてたじゃないですか。一緒でしょ」
「いやいや、白ズボンっていうのかやばいんだって。
なにこれ? 白シャツ白ズボンに白い足出して、天使?」
「魔女です、魔女」
「はぁぁほんと……明日の撮影本気でいくからね」
シワにならないよう丁寧にローブを置かれ、いよいよ先生もベッドに上がってくる。
ベッドを寝ることや検診以外で使うのは初めてだ。
なんか、変な感覚。
思わず後ずさってしまいそうな体をぎゅっと落ち着け、膝を抱えて体育座りのように丸くなる。
警戒…はしてないけど、なんか…恥ずかしいのか怖いのかよくわからない……
「…ねぇハルちゃん、本当にするの?
焦る必要ないと思うし、タイミングはこれからいくらでもあるよ。ゆっくりやってかない?」
「い、や…です……できるとこまででいいから、シたい」
想いが通じたら絶対ヤろうと決めていた。
素直なときじゃないと自分から誘えないだろうし、こっちからいかないと先生は絶対手を出してこなそうだから。
だから今日のうちに…魔法がかかった今の自分のうちに、進めておきたい。
自分の体のことは分かってる。
最後までは絶対無理。どこまでいけるのかもわからない。
でも、この人は全力で捕まえにくるクセに肝心なところで手を伸ばしてこないからーー
「あーもう…ほんとにさぁ……」
固まる僕を正面からすっぽり抱きしめ、つむじに顔を埋めてくる。
「ハルちゃん、大好き。
大好きが溢れすぎて止められないくらい好き。
この気持ちを表す言葉がない」
「…それは、よかったですね」
「うんよかった。最高に男前、かっこいいかわいい好き」
大きな体。柔らかい金髪。嬉しそうな声。
落ち着かせるようにポンポン背中を叩かれて、少しずつ体の力が抜けていく。
「ハルちゃん」
頬に手を添えられ、ゆっくり上を向かされた。
「じゃあ、ちょっとだけシようか。
少しだけ進もう。怖がることはしないし、ただ気持ちよくなるだけ。
僕も全力で暴走しないようにするから」
「暴走しても、いいです…」
「いやいや駄目でしょ。
大丈夫だよ、僕ドロドロに溶けたハルちゃん見るだけで普通に気持ちいから。多分そのまま射精できると思う」
「それは流石に変態すぎ」
「しょうがないよ、だってハルちゃんのこと愛してるもん。
もう想像だけでイけそう」
「やば」
いつもの調子で喋れてきた僕に、微笑む先生。
その顔が、だんだんと近づいてくる。
(あ、キスされるんだ)
今までこういう経験は皆無だし、知識はあってもアキやイロハに教えてもらう程度。
だから本当に未知のことで、こういうときどうしたらいいか分からない。
咄嗟に瞼を閉じると、鼻先にチュッとした感触。
ハッとすると、目の前いっぱいにイタズラ顔の先生。
「口にされると思った? かわいいなぁもう」
「っ!うぅ……!」
「あはははっ」
恥ずかしくて真っ赤になる僕の両頬を包むみたいに両手で掬われ、今度こそゆったりと先生の顔が近づく。
そうして、唇が温かい温度と 重なって
「ん……っ」
そこから流れ込む甘い吐息に、体が震えた。
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