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「こんな可愛い格好したハルちゃんに責任って言われるとかなに? 頭の処理が追いつかない。すご、え、ちょっと待って。
とりあえずカメラ持ってきていい?」
「は?」
「全部が一気に来すぎて一個ずつ消化しないと…いや消化するのも勿体ない…どうすれば……
ビデオも持ってくるね。あと部屋の温度上げないと。この病院ほんと寒いんだよね、リノベーションしてもっと断熱素材入れろって話してるんだけd」
「っ、先生!」
大声をあげる僕に、ピタリと動作が止まる。
「カメラとかビデオとかどうでもいいじゃないですか!
温度も寒いとか全然感じてないし。
それより僕は…話を……」
「どうでもよくないって!
話? 責任の?」
「責任もだけど、先生の想いのほうです」
「想い…?」
「……やっぱり僕は、お気に入り以上には…なれないですか?」
あんなに勇気づけられた気持ちが、萎んでいく。
やっぱり僕はお気に入り止まりなんだ。
同じものを返してほしいなんて、おこがましかった。
僕も先生のことをお気に入りとして見ればいいのかな。
でももう今更、そんなふうには思えないーー
「ん、ちゃんと愛してるの好きを伝えてるけど」
「ちがっ、それはfavoriteって意味なんじゃ」
「? お気に入りもはいってちゃ駄目?」
「へ?」
「loveもfavoriteもlikeもrespectも、全部入れて『好き』って言ったら 駄目なの?」
「ぜん、ぶ……?」
瞠目する僕に「あぁなるほど」と笑い、先生が椅子へ座る。
そして足を広げ、その間に立たせるよう僕の両手を引いた。
「あの夜に話したじゃん? 『僕の愛は重いから、愛せる人を慎重に選ばなきゃいけない』って。
自分でも自覚があるくらい凶暴ってこと知ってるんだ。一度捕まえたらもう離せない。命をも操作して、死後もずっと一緒にいたいと思う。だから簡単には愛せないし、愛したら最後、全部のものをあげてしまう」
(全部の、もの…)
「日本語の『好き』っていろんな意味があるよね。人によってはひとつの意味しかのせないのかもしれないけど、僕は全ての意味をのせて『好き』を伝えてるよ。
1番日本人らしいと思うんだけどな」
全ての意味を、のせて。
ハッと見下ろす先、先生がゆっくり口を開く。
「ハルちゃんのツンツンして警戒心むき出しなところが好き。ちゃんと猫かぶってるのに『意味ないな』と思ったらすぐ脱いで素を出すのも潔くて好き。これはlike」
両手を握りながら、一つひとつまるで物語を読むかのように語られる。
「生まれてからずっとキツかったのに、ちゃんと自分の体と向き合ってきた。みんなと同じ事ができないのに弱音を吐かない。苦しいのを耐えてシャンと立ってる。アキくんのことも守ってきた。そういうところ、本当に好きだ。これはrespect。
自分の容姿を自覚してるのにたまに抜けてあどけない顔を見せる。こんな衣装も簡単に着てしまう。甘え下手なのに時々すごい頑張って手を伸ばしてくれる。もうあり得ないくらい可愛くて好き。cuteも入ってるけど、これがfavorite。24時間カメラとビデオ回しときたい。ハルちゃんの初めては全部保存したい」
「…旅行最終日の、あのベッドは……?」
「あれは初めてハルちゃんから手を伸ばしてくれた記念だよ。今も僕の部屋に飾ってある」
「飾ってる? 寝てるんじゃなくて?」
「寝てない寝てない。使うわけないじゃん。あのまま永久保存だから」
「えぇ……」
ドン引く僕に可笑しそうに笑って、またじっくり目を合わせてきた。
「ハルちゃんが僕の本性を知っても逃げずに真っ向からぶつかってきたこと。喧嘩までしてくれたこと。海に落ちたとき、浮かんでこない僕を必死になって探してくれたこと。全部大好き。
なんにも持ってないハルちゃんの一番はじめの所有物になれて、言葉は無かったけど僕に『いいよ』って愛することを許してくれて。
そんなハルちゃんのことを、これからもずっと好きでいる。
そして許されるのなら、キスやその先も。
これが love」
「っ、」
「それ以外にもいろんな言葉の意味をのせて、僕はもう最初からずっと言ってたよ。
ーー『ハルちゃんのことが〝大好き〟だ』って」
「ーーーーっ、」
とろけるように甘い、いつもの顔。
蜂蜜を溶かした甘美さで、けど一度ハマったら抜けられなくなる底無し。
(なんか……僕、バカだったなっ)
この人のこと理解してるつもりだったのに、してなかった。
隠すものが何もなくなった先生は、いつだって全力で僕を捕まえようとしていて。それを知ってたのに勝手に勘違いをしてしまった。
完全に…僕のはやとちり……
この人からもらう『好き』は、想像以上に重いんだ。
「けど、僕に『好き』を返してくれるとは思わなかったな」
「え…?」
「ほら、僕こんなだし『好き』は返されないと思ってた。返されなくても僕は好きでいるし。
見返りを求めてないというか、好きでいることを許してくれただけで充分というか。
だから正直両思いとか考えてなかったのになぁ。ほんと…ハルちゃんは……
ね、やっぱりカメラとビデオ取ってきていい? お願いだからこの瞬間を撮らせて」
「嫌です我慢してください」
「無理無理無理お願い!好きだから撮らせてほしいんだって!」
「それはわかったけど絶対嫌だ!
確かに素直なのは今日が最後かもですが、それでも嫌なので保存しないでください」
「今日が最後!? なら尚更じゃん!
とりあえずスマホセットするからちょっとだけ待ってて」
「あぁもう本当にやめてってば!最悪…はぁぁ……
ーーっ、くしゅっ」
安心したからか一気に寒気がきて、体が震える。
コート床に落としたままだった。ズボンも短いし、素足が空気に触れてひんやりする。
「ほら、やっぱり寒いんだ」
グイッ
「わっ」
後ろを向かされ、いつもの好き好きタイムの姿勢で先生の膝にのせられた。
「うわーこの角度からのこの衣装のハルちゃんやっば、本気で写真残したい……
ねぇ、今日は諦める…から、明日ならいい?」
「明日って」
「このまま泊まるんでしょ? 僕のとこ」
今日は金曜日。
確かに明日明後日土日だし丁度検診日だから、もし告白が成功して邪魔じゃなければこのままいようと思ってた。
でも、それをそっちから言われるのは…なんか……
(ぅ、わ)
ジト…と後ろを見ると、懇願してるような瞳。
あるかもしれない耳や尻尾は垂れていて、もう何もしなくても「本気で残しときたい。撮らせてほしい。本当にお願い」という声が聞こえてきそう。
「…………っ、明日…10分だけですからね」
「! やった!ありがとうハルちゃn」
「ーーその代わり」
グイッとネクタイを引っ張って、僕の顔ギリギリに先生の顔を持ってくる。
「僕のこと、あっためてください」
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