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たどり着いたのはトイレ。 1番奥の個室に入り、素早く鍵をかける。 月森先輩には歩きながらトイレに向かうことをメールした。 個室に籠ってるし安心してくれるはず。 「はぁ……」 便器の蓋に座り、もらったグラスを床に置く。 投げ捨てたいけど証拠になる。取っとかないと。 手の中のスマホを触り、頭をフル回転させながら電話を架ける。 この時間、あの男はーー Prrrr…… 『もしもしハルちゃん? どうしたの?』 「今すぐ来て」 ワンコールですぐ出た声。 仕事中だけどオペ中とかじゃない。 病院には申し訳ないけどあれは僕のだ。ヨーダイ先生も僕にそうしてほしいと思ってるし、だから悪いけど僕を優先してもらう。 「飲み物に何か盛られた。飲んでないけど口付けた」 『体は?』 「今は何もない、これからかも」 『何処にいるの?』 「会場と同じ階のトイレ、1番奥の個室」 『わかった』 「警察には」 『もう架けてる、このまま話してもいい?』 「うん」 プライベートの携帯は通話のまま、そうじゃないほうの携帯で話す声が聞こえる。 (……ぁ、なんか、) 少し体が熱い、かも。 幼い頃から薬漬けだったのもあって、人より素直に薬が効くのは分かってた。 にしても、たった少し口付けただけでこれは早すぎる。 媚薬の類いだったか、それも即効性の。それをアキに飲ませようなんて、何がやりたいか明確だ。 腹が立つ。キズものにしてレイヤから離そうってか。 (大体 分かりやすすぎるんだよ) 同じ色のハンカチとかさ、仲間の顔くらい覚えとけ。 大勢で来るのも頭悪そうな感じ。会場内と外との連携も取れてないしさ。 多分、僕らがパーティー慣れしてないので足元見られたんだ。 あと月森が高校生っていうのも。 いくらあの有名な月森だからって、まだ高校生じゃないかと。いけるだろうと。 (はっ、馬鹿じゃないのか) 本来1人にしか付くことを許されない月森が、2人に付けてる意味を考えろ。 ーー僕らの月森を 舐めるなよ。 『終わった、すぐ向かうって』 「…ん。今のうちに奴らの特徴伝える、」 『なんか症状出てきた?』 「少し熱い、多分熱ある」 『わかった、僕ももう着くから』 もう? 病院ちょっと離れてたはずなんだけどな。 警察より早いってどういこと。 (……嬉しいとか、馬鹿か) 早く 来てほしい。 椅子に座ってたはずの僕がいなくなったから、多分外の奴らが慌ててる。 此処を見つける前に、早く。 少し上がった体の温度に深呼吸して耐えながら、 スマホから聞こえる恋人の声に応えるよう口を動かした。

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