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【side ハル】 「だから大丈夫だって、ほんとに何ともない。 僕の声でわかんない? 無理してる感じないでしょ? うん……うん、そう。ね、びっくりしたよねー。まぁ無事捕まってくれたからいいけど。 僕ついでにこのままヨーダイ先生のとこ泊まるからさ、アキはレイヤのとこ行きなよ。うんうん、月森先輩にも報告済み。 明日の午前中には帰るから。はーい、また連絡する。 それじゃあね」 ピッと電話を切り、広いベッドに背中から倒れ込む。 「お疲れさま」 「はぁぁ…終わった……」 なんか、一気に時間が過ぎ去っていった感。 電話繋いだままにしてたらいつの間にかヨーダイ先生が来て、そのまま車に乗せられ先生の家に連れていかれて。 すぐに解毒してくれ、あっという間に体調も元通り。 会場にも警察が来て、諸々事情聴取も終わり今解放されたらしい。 結局、どこのどいつだったのか…… (後でレイヤと月森先輩に聞こう) 「にしても、アキくん災難だったね」 「ほんとだよ、龍ヶ崎に打撃くらわせたいなら直接レイヤにすればいいのに」 「うーん、まぁそれはしょうがないかな。次期社長候補の婚約者なんだから」 「そうだ…けど……」 別れる前のアキの顔が、目に浮かぶ。 「アキは、疎くなったんだよね」 前までは全然、寧ろ僕よりこういうのに敏感だった。 幼少期からの隠れないといけないというプレッシャーに、〝ハル〟として生活してたときの責任感・使命感に。 あの子は、ずっとずっと気を張ってないといけない立場にいた。 それが今、こんなにも気が緩んでいる。 大切な人ができて、信頼できる人ができて、素敵な友だちもいて。 それら全てが、アキをここまで疎くさせた。 それが、僕には 「ーーすごく、嬉しいんだ」 もう いい。あの子は十分頑張った。 だから、これからは周りにいる僕らが守ればいい。 これ以上新たな傷ができないように。 「まぁ、取り敢えずなにもなく収まって良かったかな」 「ハルちゃんあったじゃん、媚薬」 「あれはあったに入らないでしょ、本当にちょっとだけだったんだから」 「大体どうしてパーティー行ったの? 月森のこと忘れてた?」 「………」 「うん、だろうね。そうじゃないかと思ってた」 「も、もう行かないしっ。アキも先輩いれば大丈夫だろうし、僕パーティーに興味ないし、そもそも会社継がないから行っても意味ないし…」 「ほんと? もう絶対行かない?」 「あぁ、うん……え、なに?」 「よかった〜、また行くとか言い出したら監禁しようと思ってた」 「はぁ!? いきなり物騒なこと言わないで」 「ほんとほんと、本当に。 だってまたこんなことされたら嫌じゃん。 僕がついて行くのも無理だし。ハルちゃんが他の奴と喋ってるの見てなきゃいけないとか発狂する」 「……もう行かないよ、大丈夫。 それより、僕がアキ守るの止めないんだ」 「だってそれ止めたらハルちゃん嫌がるでしょ?」 「まぁ…」 「というか、ハルちゃんの生い立ちなら止めようとしても無理なんじゃないかな。きっとこれからも無意識にアキくんの盾になることがあるよ。 でも、ま、今回みたいに月森使ったり僕使ったりして上手くするんじゃないかな、ハルちゃんは」 「え、」 〝使う〟? 僕が、一体いつーー 「だってハルちゃん、自分の体の限界を自分で知ってるから」 「っ、」 「アキくんがずっと気を張ってたのと同じように、ハルちゃんもずっと自分の体と向き合ってきた。 だから無意識にでも考慮し動けてるんじゃないかな」 (…そう、なのかな……) 確かに、トイレへ行ったとき真っ先に警察へ電話すればいいところをヨーダイ先生に架けた。 このまま警察だと、わずかに接種した薬でもしかしたら途中から話せなくなるかもしれない。 体が危険だから先生にも連絡したほうがいい。皆んなが心配してしまう。 結果、ヨーダイ先生から通報してもらえば全てが解決するのが分かって、急いで架けた。 そうか。僕、無意識に人を頼ってたのか。 気づかなかった。前なら事前に了承を取ってたのに。 アキが遠くに連れていかれて皆んなに助けを求めた時みたいに。 「アキくんが疎くなるのと同時にね、ハルちゃんも疎くなってるんだよ。 そういう人に無意識に頼ったり使ったりすることに」 ーー嗚呼、そう か。 だから、さっき月森先輩と通話したとき嬉しそうだったんだ。 僕がヨーダイ先生を頼ったから。 (先輩のヨミは間違ってなかったってね。なんだか懐かしいな、この話) 「いいよハルちゃん。もっとズブズブに頼って」 ドサリと横に倒れ込んできた顔が、ゆったり微笑む。 「僕のことたくさん考えて、いっぱい使って、無意識にでも僕がハルちゃんの頭の中に浮かんで…… そうやって、もっともっと僕なしじゃ生きられなくなって」 「………っ、はは、馬鹿じゃないの」 白いシーツに広がる、蜂蜜のような金髪。 それをクシャリと掻き混ぜながら、被さるように寝転がる。 (「もうなってる」って言ったら、驚くだろうか) それともいつものしたり顔で、「知ってた」と言うだろうか。 ーーまぁ、言わないけどさ。 首元へ顔を埋めると、嗅ぎ慣れた病院特有の匂い。 それを思いっきり肺の中へ送り込みながら、深呼吸して ゆっくりと、目を閉じた。 fin.

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