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17.開花

<全能(スプリーム)>ってもなぁ…。信じらんねぇよ、いまいち」 「ぼ、僕だってそうだよ! だいたい、魔力が覚醒したのだってここにくるまで実感湧かなかったし……」 デステニ神殿[深緑の宮]の奥にある来客用の個室の1つ、そこにノーラッドとダグラナ、そしてリリマは案内された。時間になったら部屋まで食事を運んでくれるらしい。 ダグラナがぐったりしているルゾラをつれて帰ってきた時は何事かと思ったが大したことではなかったようだ。 隣ではリリマがベッドの上で、ダグラナの膝の上では黒血歌竜(ブラッディ・アリア)のルークがすやすやと寝息を立てている。 「……そうだな。おいダグラナ」 「…なに?」 2つあるうちの1つのベッドに横になっていたノーラッドがいきなり上半身を起こし、ダグラナに問いかける。 「お前、ちょっとここで魔力、使ってみろ」 …なんて、いったいノーラッドはふざけているのだろうか。覚醒した時の魔力が爆発した時の惨状はノーラッドには話したはずなのだが。 あからさまにダグラナが困惑し固まっていると、さらにノーラッドが続ける。 「大丈夫だって。いざとなったら俺が抑え込む」 それに…と言いながらノーラッドがダグラナの片耳へ手を伸ばす。 「今は<自戒具>(アクセサリー)虹水晶(これ)があんだろ。それがありゃまず魔力がいきなり爆発……なんてことはねぇよ」 「…で、でも」 「平気だってんだろ。……ちょっと氷作ってみろ」 「は?」 ノーラッドは両手をダグラナの前に差し出し、器を作る。すると瞬く間に氷の結晶が姿を現す。すぐにそれは消えたが、代わりにノーラッドの表情が「そら、お前もやってみろ」と言っていた。 「……どうすればいいんだよ…」 文句を言いながらも両手をだし、器を作る。だがノーラッドのようになかなかすぐに氷の結晶が現れない。 「ははっ、さすがに最初からはムリか。……コツがいるんだ。頭ン中で考えてみろ。氷の結晶のこと」 ノーラッドに言われた通り、瞳を閉じて頭の中で氷の結晶のことを考える。……と。 「…っ!! おい!!」 ハッとダグラナが我に返り、目を開けると、そこに広がっていたのは両手で収まる事ができず、自分の身体を伝ってベッドをつたい、床にまで広がる氷の結晶。 さすがにびっくりした。 「っ…! ノーラッドなにかした?!」 「アホなんもしてぇねよ! 全部お前ンだ!……くっそ、魔力解除(キャンセル)!!」 ノーラッドが片手をかざす。瞬間、床にまで広がっていた氷の結晶は跡形もなく姿を消した。…まさか、こんなことになるなんて。 「お前……」 驚いた表情でダグラナを見つめるノーラッド。そのノーラッドの表情に、思わず不安そうに顔を歪めるダグラナ。 「ぼ、僕……なにか悪いことした? だったらごめん…ノーラッド」 「い…いや、お前は悪くない。悪いのは俺だ。すまん……」 面白半分でダグラナに魔力を使わせたことを後悔するノーラッド。いたたまれなくなり、ベッドかあら腰を上げる。 「悪い、ちょっと出てくる」 「あ、うん…」 気まずい雰囲気のまま、ノーラッドは後ろ髪をひかれる思いで部屋をあとにした。 まずった。 ダグラナの魔力が普通ではないのはアリエステーリャから選定を受けた時から何となくだが察知はしていた。だが、 ______。 まずそもそも<全能>(スプリーム)なんて魔力、聞いたことだけなら耳が腐るほどある。使徒なら1度は「欲しい」と思う、格別なもの。 だが、…だがそんなもの、それこそおとぎ話の世界だけの代物だ、と思っていた。 まさか、実際にいるとは……まさか、この目で見るとは。 さっきだって、ノーラッドがダグラナに要求したのはほんの小さな力を発動させればいいだけだった。いくら実感が湧いてなくて勝手が分からないとは言っても、あんな状態にはまずならないはずだ。 それに覚醒して、実感して、魔力を本格的に使うようになるまで、1度に発動できる魔力量なんて……たかが知れている。 「それで、あの量……」 最初、ダグラナは自分の魔力が暴走するのを恐れていた。だがそれは絶対にない。 何故なら<自戒具>(アクセサリー)があるからだ。それにダグラナのものは虹水晶(セブンス・クリスタル)なんて、希少価値がとんでもなく高い一等品。 「……抑えられて、あの量…なの、か……?」 行き着いた1つの答えに、思わず背中が寒くなる。 だとしたら…。もし、今、自分の考えていることが正しいのならば。 「ダグラナ……お前……」 まさか、あの子が。 ダグラナが、……そうだというのか。

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