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18.新世界への扉

「話とはなんだ」 夜啼き鳥も寝静まる真夜中、それは唐突に女王へと告げられた。 「夜遅くに大変申し訳ありません。ですが事が事だけにお早くお伝えせねばと…」 「よい、早く話せ」 デステニ神殿[深緑の宮]、神殿主(しんでんぬし)アリエステーリャの自室。目も眩むほどに透き通った水晶が映し出すのはラーヴェンの王城にいる女王ノエル。 「女王、デステニ神殿[深緑の宮]よりご報告申し上げます。 ________現れました。」 この一言に、全てを察知したノエルが水晶の向こうで玉座から立ち上がるのが見える。 冷静沈着、決して慌てない、冷血とさえ言われた女王の表情が崩れる。 その顔は喜びに満ちていた。 「……まことか、アリエステーリャ」 「はい。……あの魔力量、まず間違いないと見てよろしいかと。宿樹(イグジスト)<自戒具>(アクセサリー)も軒並み外れたものでした。なにもかも、尋常ではありません」 あくまで断定しないアリエステーリャであるが、そのものいいにはどこか確信めいたものがあった。その言葉に、さらにノエルの表情が明るくなる。 「でかした……でかしたぞアリエステーリャ!!」 アリエステーリャの言っている“現れた”____。それはこのシェヴァンノに永久(とわ)の護り神が現れたことを意味していた。 今から約21年前。先代ラーヴェン女王が国を統治していた時代、国の大予言師であるバザハムートが王城内で死を迎えた。 その死の直前、彼女はたった1人の娘……現予言師のリュオンに最後の予言を託していた。 それは今までバザハムートが予言してきた中で最大にして、結果によっては最悪になってしまうかもしれないもの。 そう、 <聖戦の幕開け>(プラチナ・アダム)である。 これは…この予言書には、これからのラーヴェン……いや、シェヴァンノの行く末を現していた。 「星の子が流れる日の晩、紅蓮の炎を吐く地上の王によってその力は目覚める。  運命の魂の逢瀬は更なり、その魔力は絶大なる力を有し、母なる地に永遠の和平をもたらすであろう」 この聖戦の幕開け(プラチナ・アダム)の全文、1つずつ意味を解していく。 まず「母なる地」、これは雄大な大地、シェヴァンノ大陸を意味する。世界には4つの大陸があり、それらが世界の裏にある世界樹によって支えられ、成り立っているとされている。数多の生命の住処、言わば全生命の生まれし場所、それがシェヴァンノである。 そして「永遠の和平」。これは母なる大地・シェヴァンノに護り神が降臨することを意味する。護り神が降り立ったその地は永久的に完全な平和が約束される。これは全ての国、大陸の統治者が望む世の行く末である。 さらに最近のリュオンの予言で分かっているのは「護り神」の存在となるのは、かつて本当に存在したが悪魔的な強力さ故に封印され、今ではおとぎ話の世界の中だけのものとなって今日(こんにち)まで語り継がれてきた伝説の魔力<全能>(スプリーム)を有するもの。 その絶大な魔力で人々を誘導し、完全和平に導く……というものだった。 <全能>(スプリーム)の魔力を有する者、_____ダグラナ・アリア・フェルナン。 かつて、ダグラナは村を火竜によって襲撃され、両親を失っている。 12年前、それは流星群の流れる美しい夜だった。 ダグラナの生まれた村、フォルティスは雄の火竜に襲撃される。雄の火竜、またの名を「地上の王」。 両親と共に寝ていたダグラナは、両親が火竜に襲われ、命尽きた瞬間に目を覚ます。その危機的瞬間に吠えたのはダグラナ自身の本能。 火竜がダグラナをも手に掛けようとした、その刹那。ダグラナから発せられたのは「地上の王」たる火竜の雄が眩むほどの不思議な力。 その直後、若かりしノーラッドがダグラナを救出している。 「運命との魂との逢瀬」とは、このこと。ダグラナはΩ(オメガ)、対してノーラッドはα(アルファ)。 2人は、<魂の番>(ゴッド・ノウズ)。 過去何百年かの研究のデータとして、<魂の番>(ゴッド・ノウズ)と出逢った使徒は爆発的に己の魔力が増幅することがわかってる。 12年前、ノーラッドがまだ幼いダグラナを救出し、2人が瞳を合わせたその瞬間、バザハムートの予言は半分以上現実となっていたのである。 残りの「その魔力は絶大な力を有し、母なる地に永遠の和平をもたらすであろう」というもの。 これが実現すれば、バザハムートの予言は完了し、全てが現実となる。 「…がせ」 ノエルが水晶越しにぼそりと呟く。しかし、興奮に打ち震えた彼女の声はアリエステーリャ届かない。 「…は?」 アリエステーリャが聞きなおそうと水晶を覗き込んだ瞬間。 「探せ!!!! その魔力、我らがシェヴァンノの未来を約束するのなら我はなにも惜しまん!!」 歯車が、急速に、動き出す。 「必ず見つけ出せ!!!!」 止まることなく、廻り始める。 動き出したら、止まらない歯車が_____。

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