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19.放たれし力
「ダグラナ!!」
神殿の外から部屋に戻れば、ダグラナはベッドの上でルークと寝こけていた。
急いでダグラナを起こす。
「おいダグラナ! 起きろ!!」
「ん~~? なぁにノーラッド、まだ暗いよ?」
急にたたき起こされ不満気な表情でノーラッドに尋ねる。だがそんなものに付き合っている暇はない。
_____もし……もし仮に、先ほどのノーラッドの推測が正しいのなら。
「ダグラナ、いいかよく聞け!」
「……ど、どうしたの? なにかあった……?」
尋常ではない空気をまとうノーラッドの様子に、ダグラナも本気で焦り始める。
「今から急いでこの神殿を離れる。理由は今は詳しく話せないが後で絶対に言う。だから今は黙って俺のいうことを____」
聞け、という最後のノーラッドの言葉は、ダグラナに届くことはなかった。
ベッドに座るダグラナの肩を両手で掴んでしゃべっていたのだが、背後からの刺客に、ノーラドは気付く事ができなかった。
「___っ」
「……ノーラッド!!!」
大きな鎌を振り下ろされ、ノーラッドの背中に大きく深い傷を作る。声を発することもなく、その場に倒れこんだ。
鎌を振り下ろした張本人は顔が隠れるように深くフードをかぶっていて、確認ができない。
あまりに一瞬のできごとに、ダグラナの思考が一瞬停止する。
「ダグラナ!!! こっちに!!」
後方から聞こえたのは、いつの間に起きたのか、リリマの声。
ダグラナがハッと振り返れば、そこにはダグラナに狙いを定め、鎌を振り上げるフード姿の影。
「……っ!!」
「リリマ!」
それを間一髪でリリマが水の膜を張って避ける。
足元ではダグラナの背中から、血がどくどくと溢れ続けている。
(どうすればいい……っ。まさか、まさかこんなことに…!!)
その時、蘇ったのは先ほどのノーラッドの言葉。
『頭ン中で考えてみろ。氷の結晶のこと』
…そう、だ。考えろ。
頭の中で。
コイツを……、ノーラッドをこんなにしたコイツを、殺す方法を______!!!!!
「煉獄焔の怒り !!!」
ダグラナの怒りの叫びと共に両手から溢れたのは、黒にうごめく煉獄の焔 。
それはまるで生き物のように相手へとまとわりつき、決して離さなかった。
「…ダ、グ」
「リリマ早く!! 今のうちに!!」
茫然とするリリマをよそに、ダグラナは床に倒れていたノーラッドを背負い、窓へと駆け寄る。
依然としてノーラッドから溢れる血が瞬く間にダグラナを深紅に染めていく。
「リリマ、水のクッション作れる?」
「……え?」
「リリマ、作れる?!?」
未だ状況についていけていない様子のリリマ。ダグラナの問いかけにも生返事なのを、ダグラナが叱咤する。
「…ぇ、ええ。ごめんなさいダグラナ……ええ! 出来るわ!!」
「じゃ、作って!!」
言い切る前に、ダグラナが窓を開け放ち、飛び降りた。その小さな背にはノーラッドを背負っている。
この部屋は神殿の3階。……そのまま地面に叩きつけられれば、ただでは済まない。
リリマが指を1つ鳴らせば、ダグラナの着地点に水のクッションが現れる。
無事に地面に降りたダグラナは、先ほどまでいた階の部屋を見上げると片手をかざす。
かざされた片手から現れたのは光る無数の矢。一瞬で目標の場所へと吸い込まれていく。
「追尾する矢 !」
「っ、ダグラナ?!」
「念の為だよ、リリマ。行こう」
ダグラナ、ノーラッド、リリマ、ルークの一行は、森へと向かって走り続けた。
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