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第53話

小さな小さな幸せだった。 それで十分だった。 猫が三匹に千鶴と俺で、世界はそれだけで良かった。 疲れきって俺のベッドで眠る千鶴を起こさない様に窓際まで行くと、カーテンと窓を開けてタバコに火をつけた。 夜の空には満月が浮かんでいて、虹のように明るく光る。 眠る千鶴にも月明かりが落ちて、散々つけた赤い華の痕を照らす。 タバコを吸い終わると窓とカーテンをまた閉めて、ベッドに腰掛けた。 千鶴の髪を撫でると、少しだけ目を開けて「皐月さん」と呼ばれる。 こめかみにキスを落とすと、俺もベッドに入って千鶴を抱き締めて眠った。 この時間がずっと続けばいい。 続かないと知っているからこそ、そう願ってしまう。 それはきっと千鶴も同じ様に感じている。 だから俺達は身を潜める様にきつく抱きしめ合うんだ。

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