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第54話
朝になって目が覚めると隣には千鶴がいなくて、でも慌てたりはしなかった。
タバコに火をつけて一服してから階下に下りると居間からテレビの音が漏れて聞こえてきた。
音をたてないようにそっと居間を覗くと猫達と遊ぶ千鶴の後ろ姿が見えた。
もしかしたら朝になれば千鶴は居なくなっているかもしれないと思っていた。
刹那的に生きる千鶴をずっとここに縛り付けておく術を俺は知らなかった。
千鶴の細い身体を抱いたって、仕事を辞めさせたって、千鶴の中にある欠けた部分は埋まらない。
俺の中の欠けた部分がいつまで経っても埋まらない様に、千鶴の欠けた部分も埋まりはしない。
欠けた者同士が身を寄せあって、傷を癒しあって、補い合いながら生きていく。
千鶴をもしここに居させたいなら、俺がもっと千鶴に心の中を見せていかなきゃいけないんだろう。
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