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第55話
例えば千鶴の過去にどんな酷い事があって、この間みたいにめちゃくちゃに扱われて、それでも俺は千鶴を拒んだりはしない。
千鶴が傷だらけで河内に連れてこられた時、この場所を選んできた事で拒む理由が無くなった。千鶴がここに居たいと思っている間はここが千鶴の居場所だ。
ここから居なくなる時は何も言わずにそっと消えていくのだろう。俺はそれに気付かずに、居なくなった後に慌てるんだ。
「千鶴、おはよう」
「あ、皐月さん、おはよー」
振り向いた千鶴は屈託なく笑う。
服の隙間から俺が昨夜付けた赤い痕がチラチラと見え隠れする。もっと沢山付けておけば良かった。
「朝飯作るかー」
「お腹空いたー」
「起こせば良かったのに」
「だって皐月さん、昨日頑張りすぎて疲れてると思って」
「そこまで年寄りじゃねーよ」
軽口を交わしながら台所に二人並んで朝飯の準備をする。千鶴がテーブルを拭いて、箸を並べてお茶を用意する。
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