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第60話
結局、仕事に集中出来ずに何時間も椅子に座ってパソコン画面をボーッと見ていた。
そのうちインターフォンが鳴って、河内に抱えられた千鶴が帰って来るんじゃないかと淡い期待をしながら。
けれど、千鶴は帰らなかった。
来た時と同じように突然、いなくなった。
やっぱりアイツは野良猫だったんだ。一つの場所には寄り付かない自由な猫。
野良猫の気まぐれに振り回された残念な男が一人、それでも帰りを待っているんだから健気な話だ。
また酷い目にあってないか、アザだらけになってないか、精液だらけのままにされてないか。
俺みたいなお人好しのバカが他にもいて、千鶴にあったかい風呂と飯を用意してくれてたらいいのに。
千鶴が安心した顔でゆっくり眠りにつける場所に居てくれるなら、俺も安心だから。
だから、千鶴。
疲れたらいつでも帰っておいで。
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