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第80話

はだけていたバスローブをきちんと直しながら、千鶴は俯いてしまった。 なんとか本能から逃れようと必死な様子だった。 「とにかくうちに来い。そんなカッコじゃヤバイだろ」 「……なんで?客は?」 「そんな事は今は考えるな」 熱いのか、寒いのか、千鶴の身体が小刻みに震えていた。その身体を思い切り強く抱きしめて髪を撫でる。 相変わらず細い身体。触り心地のいい肌。 あちこちについた傷とアザ。 千鶴の事は何も知らない。千鶴も俺の事は何も知らない。 それでも俺は、千鶴の背負う荷物を一緒に背負いたいと思った。 「帰ったらその身体、楽にしてやるからもう少し我慢しろよ」 「……皐月さん、ダメだよ」 「いいから、今は俺に甘えとけ」 俺の肩口に顔を埋めた千鶴から小さな嗚咽が聞こえた。 家に着くまでずっと髪を撫でて何回も千鶴の名前を呼び続けた。

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