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第101話
十歳になった頃、真幸の母親がまた迎えに来た。
今度はちゃんとやるから、と泣いて土下座する母親に真幸は始めて動揺して見せた。
そしてまた母親と暮らす事を選んだ。
施設から出ていく真幸を見送るのは二回目。
最初から親のいない俺には、真幸の気持ちがちっともわからなかった。
酷い目に散々あったのに何でまた親を選ぶんだろう。俺にはきっと一生わからない。選ぶ事が出来ないのだから。
「寂しくなかった?」
俺の顔を覗き込みながら千鶴が言った。
俺は少し考えて、首を横に振った。
「あの頃は寂しいって気持ちはわからなかった。真幸より俺の方がおかしかったんだろうな」
心の何処かが欠落してたんだと思う。
寂しいも、嬉しいも、楽しいも、悲しいも。
色で例えるなら全部灰色だった。
中途半端な存在だった。
「今はわかる?」
千鶴は膝に置いていた猫を下ろして俺の側まで来ると、手を伸ばして俺の頬に触れてきた。
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