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第157話
電話の相手が一言、場所を告げた。
無意識に握り締めた手に力が入る。
「絶対、千鶴に手を出すな」
向こう側で嘲笑う声が聞こえる。
「わかったな?」
頼むから千鶴をこれ以上傷付けないでくれ。
「――根津」
名前を呼ぶと通話が切れて、ツーツーという機械音だけが耳に残った。
急いで出かける支度をして、普段乗る事がなくて駐車場に置いたままだったバイクの鍵を掴んで外に出た。
エンジンをかけると、待っていたかのようにいい音を響かせるバイクに跨り指定された場所にバイクを走らせる。
――根津は、あの同窓会の後の偶然の再会をしてから俺に頻繁に連絡を寄越すようになった。
高校時代の初恋の相手で、俺にも分け隔てなく接してくれた記憶と、その後の転落に心配していた事もあってなるべく根津からの電話には出るようにしていた。
真幸はきっと気が付いていた。俺が根津と連絡を取り合っていることを。
けれど見て見ぬ振りをしてくれていた。
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