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第165話
じゃあ、俺はどうしたら良かったのだろうか。
根津の求める通りに不幸のどん底に自分から堕ちていけば納得してくれたのか。
それとも一人きりで孤独に生きていれば良かったのか。
千鶴を拾ったりしないで、千鶴の好意に応えたりしないで、一緒に穏やかに生きていく事を望まないで。
「お前なんか産まれる前からいらない存在だったんだから、大人しく俺の言いなりになってりゃ誰も巻き込まずに済んだんだよ」
根津の言ってる事は間違ってない。
どうせ最初から捨てられてしまった生命だ。人並みの幸せなんて分不相応だ。
「でも、あんたが俺に言ったんだ。物語を書けって」
その言葉が無かったら俺は今、小説家なんてやってない。
それで飯が食えるような生活なんて出来てなかった。
「あんたには感謝してるんだ。先生だったあんたが好きだったんだよ」
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